【読書感想】たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説

『このミステリーがすごい! 2021年版』国内編 第1位、〈週刊文春〉2020ミステリーベスト10 国内部門 第1位、〈ハヤカワ・ミステリマガジン〉ミステリが読みたい! 国内篇 第1位と、数々のミステリーランキングで第1位を獲得した、辻真先さんの著作です。著者の辻真先さんは、御年89歳。来年には卒寿を迎えようという大御所です。

あらすじ

昭和24年、ミステリ作家を目指しているカツ丼こと風早勝利は、名古屋市内の新制高校3年生になった。旧制中学卒業後の、たった一年だけの男女共学の高校生活。
そんな中、顧問の勧めで勝利たち推理小説研究会は、映画研究会と合同で一泊旅行を計画する。顧問と男女生徒五名で湯谷温泉へ、修学旅行代わりの小旅行だった──。
そこで巻き込まれた密室殺人事件。さらに夏休み最終日の夜、キティ台風が襲来する中で起きた廃墟での首切り殺人事件! 二つの不可解な事件に遭遇した勝利たちは果たして……。

ーたかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説 – 辻真先|東京創元社ー

読書感想

冒頭にも書いたように、著者の辻真先さんの89歳という年齢にも驚かされますが、そう言えば最近直木賞作家で 旭日小綬章受章も受賞された佐藤愛子さんの、『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』がベストセラーになっていたとか話題になっていましたから、作家の方たちの執筆意欲というのは際限が無いのだなと驚嘆してしまいます。そう言えば推理小説では西村京太郎さんなどもいらっしゃいましたね。年齢だけで見たら、いつアクセルとブレーキを踏み間違えてもおかしくない年齢だと思いますから、ミステリーのような細部にまで神経を尖らせないとならない小説を書くというのは、普通の人にはとても真似できないことだろうと思います。

というよりも、私自身まだまだ若輩者ではありますが、目はすでに老眼で、普通に本を読むことですら、結構苦行になっている部分があります。それなのに、これほどまでの小説をきっとそれほど苦もなく完成させてしまうのですから、正直感嘆しかありません。作家の先生方というのは、やはり私のような凡人とは住む世界が違うのだろうなとやや諦めの境地でもあります。

さて、この先若干のネタバレがありますのでご注意ください。と言っても、そのこと自体は特にストーリーに影響ありません。

この小説は副題に昭和24年の推理小説とありますが、昭和24年と言えば敗戦の焼け跡もまだ生々しい戦後混乱期で、GHQの監視下にあった頃だろうと思います。最初にこの年を見たときに、ちょうど横溝正史の「犬神家の一族」くらいの年だなと思いましたが、本書に出てくる名探偵は、まさにその「犬神家の一族」にも登場する「金田一耕助」の助手をしたことがあるという人物です。金田一耕助は、日本で高名な言語学者「金田一京助」から名前を借りたというのは横溝正史ファンならずとも聞いたことがあるであろう有名な話ですから、当然架空の人物です。その人物の弟子という体裁をごく自然に演出できるのは、作者が「ルパン三世」や「名探偵コナン」などの脚本も手掛けているからなのでしょう。

そうしたテレビアニメなどで鍛え抜かれているからなのか、やはり話の展開がとても面白く、そして若々しく、私の文章みたいな黴臭さもありません。推理小説というよりも青春群像劇を見ているかのような、目の前で演劇が展開されているのかと思えるくらいに引き込まれる内容です。

私感としては、殺人事件に遭遇した登場人物達の反応が少し薄すぎるのではないかとか、その時代背景から情景描写というか風景描写に多少分かりづらい部分があるように思いましたが、その辺りは自分なりの解釈を織り込んで読んでもいいのではないかと思います。

やはり、「このミス」で第1位になる小説は面白い、そう思わせてくれた一冊でした。

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