【読書感想】じんかん

こちらは2020年上半期直木賞候補になった今村翔吾さん著作の長編歴史小説です。これも500頁を超える超長編となっています。

あらすじ

仕えた主人を殺し、天下の将軍を暗殺し、東大寺の大仏殿を焼き尽くすーー。
民を想い、民を信じ、正義を貫こうとした」青年武将は、なぜ稀代の悪人となったか?

時は天正五年(1577年)。ある晩、天下統一に邁進する織田信長のもとへ急報が。信長に忠誠を尽くしていたはずの松永久秀が、二度目の謀叛を企てたという。前代未聞の事態を前に、主君の勘気に怯える伝聞役の小姓・狩野又九郎。だが、意外にも信長は、笑みを浮かべた。やがて信長は、かつて久秀と語り明かしたときに直接聞いたという壮絶な半生を語り出す。

『じんかん』(今村 翔吾)|講談社BOOK倶楽部

読書感想

タイトルの「じんかん」というのは、漢字で書くと「人間」です。普通は誰でも「にんげん」と読みますが、その場合は個人の意味を表す人間。これを「じんかん」と読む場合は「人の世、人の住んでいる世界や世間」のことを指す言葉になります。よくドラマや映画で織田信長が舞う幸若舞の「敦盛」の一節に、「人間五十年、化天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり」というくだりがありますが、このときに「にんげん」と読む場合もあれば、「じんかん」と読む場合もあります。

物語の主人公は戦国時代三悪人の一人、松永弾正久秀。最近では、本当は久秀は悪い人じゃないぞ説もかなり勃興しているようですが、本書もそちらよりの内容です。久秀が犯したと言われる三つの大罪も、実は冤罪だったり濡れ衣だったり、あるいは不可抗力だったりで、久秀の真の姿は類稀な忠臣であり、武士が支配するのではなく、民による戦さのない平和な世界を作るという崇高で壮大な目的のために、時には進んで戦の囮になり、時には自ら悪者になって内政の諍いを治めたりと、ヒールのイメージを一新する新しい展開です。

仲間や兄弟思いの人間性や三好家に対する忠誠心がわかりやすく描かれていて、相当長い小説ですが、とても気持ちよく読むことが出来ました。ただ、出てくる漢字は結構難しいものが多いですね。歴史小説は人名を覚えるのも一苦労ですが、歴史そのものの知識もある程度無いと、その背景を理解するのが結構大変です。それに加えて読めない漢字が多いとなると、さすがに内容を理解するのは難しいでしょう。

私もこの本に出てくる難読漢字リストを作ろうかと思ったくらいですから、中学生だとちょっと難しいかもしれませんが、高校生くらいの人が読んで登場する漢字を全部読めるようになれば、かなり国語力も付くのではないかと思います。それも含めて直木賞候補に相応しい秀作でした。

じんかん

今村 翔吾 講談社 2020年05月27日頃
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