【読書感想】スモールワールズ

2022年本屋大賞第3位、一穂ミチさん著作の短編6編を収めた連作短編集です。著者の一穂ミチさんは、同人誌活動を経て2008年に商業デビュー、BL小説界をメインに活躍し、会社員としても働いている兼業作家さんのようです。本作『スモールワールズ』は第165回直木三十五賞候補、さらに第43回吉川英治文学新人賞を受賞しています。

2020年本屋大賞を『流浪の月』で受賞した凪良 ゆうさんもそうですが、BL関係の小説を書く方というのは、文才に優れた方が多いようですね。これは昨今セクシャルマイノリティが世界的に注目を集めているからなどという安直な理由からではないでしょう。

あらすじ

第1話「ネオンテトラ」

夫との関係に鬱々としていた美和は、ある夜、一人の中学生男子と出会う。水槽の中で泳ぐペットの熱帯魚と孤独な少年を重ねながら、二人の逢瀬は続けられ……。

第2話「魔王の帰還」

鉄二の平和な高校生活はある朝くずされた。泣く子も黙る恐ろしい姉ちゃんが出戻ってきたのだ。傍若無人でめちゃくちゃな姉だが、その裏には悲しい理由がありそうで……。

第3話「ピクニック」

生後十ヵ月の女児が不慮の死を遂げた。幸せな家族に向けられる恐ろしい疑惑――赤ちゃんを殺したのは身内ではないのか。衝撃のラストが待ち受けるミステリー。

第4話「花うた」

兄を殺され、天涯孤独の身となった深雪は、一通の手紙を送ることに。宛先は、服役中の「兄を殺した加害者」本人だった。往復書簡がもたらす、罪と罰と赦しの物語。

第5話「愛を適量」

くたびれた中年教師の慎悟は、十数年ぶりに我が子と再会する。「しばらく置いてほしい」と言う子どもとの不思議な共同生活で、家族の時間を取り戻すことはできるのか。

第6話「式日」

高校時代から仲の良かった後輩の父親が亡くなった。急遽参列することになった葬儀への道中、後輩と自分との間に生まれてしまった、わだかまりの正体に気付いていく……。

スモールワールズ(著:一穂ミチ・2021年4月22日発売)公式サイト │ 講談社

読書感想 ※ネタバレあり

本作は、もともとは『小説現代』のリニューアルに合わせて”歪な家族”をテーマにした連作短編を依頼された6編をまとめたものですが、話そのものはまったく別の時間・空間について書かれているものが、クロスオーバーされている部分があったりして、非常に秀逸な出来になっています。

タイトルから受ける印象が、ディズニーランドのアトラクション、『イッツ・ア・スモールワールド』を連想させる部分もあったりして、ハートフルな、もしくはハートウォーミングな内容を期待させますが、あにはからんや、そんなことだったのかと衝撃を受ける内容になっています。ただ、アトラクションの『イッツ・ア・スモールワールド』も怖いという人はそれなりにいるので、そういう意味では多少似たところがあるのかもしれません。

ちなみに、イッツ・ア・スモールワールド(It’s a small world!)は、直訳すると「小さな世界」ですが、「世間は狭い」だとか、「奇遇だね」という意味の慣用句でもあります。それになぞらえると、このスモールワールズも各話にそれぞれ関連するエピソード的なものが添えられていて、そのことが直接意味を成すわけではありませんが、見つけると面白いなと感じます。

クロスオーバー部分

おそらく徹底的に読み込めば、さらに気付きの部分が増えるのではないかと思うのですが、私が気がついた部分のみ記述してみようと思います。

最初は連作といっても、先ほど書いた”歪な家族”がモチーフになっているだけで、特に各話の繋がりは気に留めなかったのですが、最後の「式日」の最後の方で『ネオンテトラ』が出てきて、これが第1話の「ネオンテトラ」と繋がっていたことに気付きます。むしろ気づかせるために、ただの金魚ではなく、わざわざ『ネオンテトラ』を使ったのでしょう。「式日」そのものはそれほどインパクトのある話にはなっていないのですが、これが第1話「ネオンテトラ」の後日譚だとすると、また違った未来に衝撃を受けることになります。この辺は作者の仕掛けなんでしょうが、実に巧妙です。

順番は前後しますが、その「ネオンテトラ」の最後の方で、道を譲ってくれた女性トラック運転手が、「魔王の帰還」に出てくる姉の『魔王』なのでしょう。

また、その「魔王の帰還」で『魔王』の弟『鉄二』が授業中に寝てしまって、前の「古典」の授業から「日本史」の小テストの時間になっていたというのは、第5話「愛を適量」で、やる気のない中年教師の慎悟が教えていたのが古文だったことを考えると、その学校で慎悟の教え子だったのかもしれません。

さらに『魔王』が最後にテレビに文句を言うくだりで流れていたニュース、生後10ヶ月の赤ちゃん死亡というのが、第3話「ピクニック」へのフラグになっています。

ここまでで、第1話、第2話、第3話、第5話、第6話は一応繋がりがあるようには思えます。第4話「花うた」に関しての伏線はわからなかったのですが、第3話の「ピクニック」で母親を弁護した弁護士の息子も、後に弁護士になったという記述がありますので、これがおそらく「花うた」で仲介役になった弁護士と同一人物なのでしょう。さらに、第4話「花うた」と第5話「愛を適量」で看護師が出てきますので、もしかするとそのどちらかと、もしくは両方と繋がりがあったのかもしれません。ドラマにしたらきっと面白いでしょうね。

その第4話「花うた」に関して多少引っかかったのは、通常こうした事件の場合は、弁護士に促されて加害者側から先に被害者家族へお詫び状や反省の弁を出すのではないかと思います。ただ、それに返信する遺族も少ないだろうことを考えると、これはこれでありなのかなとは思います。

個人的に一番惹かれたのは第3話の「ピクニック」で、これを読んだだけで作者の才能と力量がわかるかと思える良作で、短編でありながら読み終わったときには思わず唸る作品でした。

各話それぞれ文体もテイストも違っているんですが、その一つ一つが面白く示唆に富んでいて、本屋大賞第3位も納得できる秀作でした。多くの方に是非おすすめしたい一冊です。

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