【読書感想】光のとこにいてね

2023年本屋大賞第3位、第168回直木賞にもノミネートされた一穂ミチさん著の小説です。一穂ミチさんは、『スモールワールズ』で2022年も本屋大賞第3位に選出されていますので、2年連続の本屋大賞第3位&両作とも直木賞ノミネートの快挙です。

あらすじ

――ほんの数回会った彼女が、人生の全部だった――

古びた団地の片隅で、彼女と出会った。彼女と私は、なにもかもが違った。着るものも食べるものも住む世界も。でもなぜか、彼女が笑うと、私も笑顔になれた。彼女が泣くと、私も悲しくなった。
彼女に惹かれたその日から、残酷な現実も平気だと思えた。ずっと一緒にはいられないと分かっていながら、一瞬の幸せが、永遠となることを祈った。
どうして彼女しかダメなんだろう。どうして彼女とじゃないと、私は幸せじゃないんだろう……。

――二人が出会った、たった一つの運命
切なくも美しい、四半世紀の物語――

ー 『光のとこにいてね』一穂ミチ | 単行本 – 文藝春秋BOOKS ー

読書感想(若干ネタバレ含む)

ということで以下は未読の方はご注意願います。

出会いの少女時代「羽のところ」、再会の高校生時代「雨のところ」、さらに再再会となる成人してからの「光のところ」の三部構成で女性二人が主人公の物語です。再会するのはネタバレではありますが、上のあらすじに四半世紀の物語とありますので、再会の予想は誰しもがつくだろうと思います。

全体の構成としては交互に自分の思いを綴る形式になっています。以前読んだ本(ここでも感想を述べていたはずですが、どれだったか忘れたので思い出したら修正します)の中にも同じような構成で、マークの意味がわからずに誰の述懐なのか混乱したことがありますが、主人公によって冒頭のアイコンのようなマークが変わっているのと、順番がきっちり守られていて、他の人が割り込んでくることもありませんので特に混乱はありません。

前に書いた『スモールワールズ』の読書感想で、作者の一穂ミチさんは元々はBL関係の小説をメインに書いている作者さんだと紹介していますが、本書はおそらく友情とは少し違うGL系の話と言ってもいいのでしょう。

いわゆるノンケ(異性愛者)の人から見ると、読んでいて気持ち悪かったり、気持ちが理解できなかったりというのはあるかもしれません。もっともSNSなどを見ていると、最近の若い人たちは異性よりも同性とベッタリという感じで仲良くする人も増えたような気がします。本作に関してもきっとそうした女性の方(もしくは男性?)が多く共感を覚えるのではないかと思います。

特に女性特有とも思える母親による娘の呪縛的なものは、私が知っている女性などの意見を聞いていても感じることが多いです。男性が特に深い考察も無いまま空気のように描かれるのは、その辺りを反映したものなのでしょうし、どちらかというと女性に向けたメッセージなのだろうとも思います。

もちろんそうした同性愛的なものだけではなくて、複雑な家庭環境や特に母親に対する葛藤や愛憎、複雑な家庭環境なども影響して、物語全体に厚みを加えています。

第一章、第二章と小学・高校時代は特に舞台がどこかというのはわからないのですが(第三章で一人が東京の学校の先生になっているようなのでおそらく東京もしくは近県だろうと思いますが)、第三章になると紀伊半島の南端に舞台が移ります。ここからは具体的な地名や名称、建造物などが出てきますので、馴染みのある方ならその光景を思い描くことが出来るでしょうし、今はGoogleマップのストリートビューで大体把握できるので、もしも具体的な光景が思い描けなければ参考に見てみるのもいいかもしれません。高校時代に主人公の一人が好きだったギュスターヴ・ル・グレイの写真もネットで検索すれば出てきます。

二人が思い合う心、それでいてなかなか本心を打ち明けられないもどかしさなど心に刺さる描写が多く、どこか自分でも思い当たる遠い切なさの記憶みたいなものがこみ上げてきます。このままドラマ化出来るのではないかと思えるほどのストーリー展開で、本屋大賞第3位も納得の秀作でした。

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