【読書感想】汝、星のごとく

2023年本屋大賞受賞、2022年下半期直木賞候補、その他数々の賞に輝いた、凪良ゆうさん著の小説です。著者の凪良ゆうさんは、2020年にも『流浪の月』で本屋大賞を受賞しており、その翌年の2021年にも『滅びの前のシャングリラ』で本屋大賞第7位になっています。今回は満を持しての本屋大賞2回目の受賞というところでしょう。

あらすじ

ーーわたしは愛する男のために人生を誤りたい。

風光明媚な瀬戸内の島に育った高校生の暁海(あきみ)と、自由奔放な母の恋愛に振り回され島に転校してきた櫂(かい)。
ともに心に孤独と欠落を抱えた二人は、惹かれ合い、すれ違い、そして成長していく。
生きることの自由さと不自由さを描き続けてきた著者が紡ぐ、ひとつではない愛の物語。

ーーまともな人間なんてものは幻想だ。俺たちは自らを生きるしかない。

ー『汝、星のごとく』(凪良 ゆう)|講談社BOOK倶楽部 ー

読書感想

いわゆる恋愛本になるのだと思いますが、ダブル主人公になっています。蛇足ですが、最近の恋愛本はわりとこうしたダブル主人公的な構成が多いような気がします。

それぞれ家庭環境、特に親に問題のある男女が、その不遇からお互いに理解し合い、やがて惹かれ合い恋に落ちるというのは、ある意味自然の流れであり、展開としてはややベタではあるものの、そこは作者の力量によって、物語にぐいぐい引っ張り込まれます。

どことなく韓国ドラマを想起させる、いろんな要素を詰め込んだ、どの場面を切りとっても既視感のある内容ではあるんですが、それが故の安定感と自分の人生や性格に当てはめてみても共感できる、とても納得のいく物語になっています。なんというか全体的に筆者の熱量が伝わってくる筆致で、登場人物に感情移入しやすく、読んでいて感情を揺さぶられます。

理屈ではわかっていながら、それを感情が許さないという自分にも思い当たる過去や、相手の幸せを願いつつもそこに自分がいないことへの寂寥や焦り、嫉妬からくる、逆に不幸を願うような心情。そんな諸々の気持ちをごく自然に描写しています。物語の王道ではあるのでしょうが、それを筆者の筆力によって高められた感があります。

前回本屋大賞にノミネートされた『滅びの前のシャングリラ』は、SF的な要素が強かったので、若干突飛な物語にも感じられましたが、本作は主人公二人が、ごく普通の高校生から社会人になり、その間の仕事や家族の問題、葛藤、すれ違いといった、誰もが思いあたるであろうことにうまくシンクロさせていて、多くの人が主人公二人を応援したくなる内容になっているのではないかと思います。

前回本屋大賞にノミネートされた『滅びの前のシャングリラ』が映画で言うところの『アルマゲドン』なら、これは韓国ドラマの『冬のソナタ』かなという印象です。また、その前に本屋大賞を受賞した『流浪の月』に関しては、私の個人的な感想としては綺麗事のような気がして若干物足りないものも感じたんですが、この作品に関しては文句のつけようがありません。

そして、前回取り上げた本屋大賞第2位の『ラブカは静かに弓を持つ』や、同じく第3位の『光のとこにいてね』も、かなり本屋大賞的というか、本屋大賞を受賞してもおかしくないと思うほど内容が素晴らしかったのですが、この順位の差は読んでみて納得しました。きっと筆者がこれまでに紡いできた物語の到達点、磨き上げた文才の頂点と言っても良い作品でしょう。本屋大賞にふさわしい傑作でした。

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