【読書感想】宝島

第160回直木賞を受賞した真藤順丈さんの著作です。舞台は戦後の沖縄、戦果アギヤーの英雄オンちゃんを慕う親友グスクとオンちゃんの実弟レイ、オンちゃんを恋い慕う女性ヤマコという3人の幼馴染みが主人公の物語です。

戦果アギヤーとは、アメリカ軍の倉庫から物資を盗んで来る人達を指すのですが、オンちゃんは窃盗したものを地域の人々に配り、困窮する人たちの生活を助けていたという、ねずみ小僧のようないわゆる義賊です。盗品が戦利品(戦果)であり、戦果をあげた人をアギヤーと呼びました。そんなわけで主人公の3人のみならず、コザの人たち全てが、オンちゃんを英雄と崇め、誇りに思い、頼っていたのです。そんなオンちゃんがキャンプ・カデナを襲撃した折、アメリカ軍の反撃に遭い、その時も同行していたグスクやレイとはぐれてしまったところから、壮大な謎解きとミステリーが始まります。

物語は沖縄の語り部から聞いているように進みます。ところどころ沖縄の方言のルビが振ってあるので雰囲気は沖縄そのものですが、著者は東京出身です。登場人物に実在の人物や歴史を交えて物語が展開するので、その分だけ重厚さを増していますが、おそらくそれを知らなくても楽しめるでしょう。

ただ、第二次大戦時の沖縄の惨状や沖縄特有の信仰などを知っていると、より深く感じ取れるのではないかと思います。私達本土の人間にとっては、沖縄はハワイやグアムと並ぶリゾート観光地ですが、土着の人々にとっては大戦の暗い歴史、アメリカ統治と日本への返還の間で振り回されてきた歴史があります。アメリカ兵による度重なる強姦事件、轢き逃げ事件、軍用機の墜落などで辛酸を舐めさせられてきた過去、そしていまだに米軍基地問題で揺れている現状、それらを考えると沖縄の人たちの怒りや悲しみを考えずにはいられません。

以下はネタバレになりますので、まだ本書を読んでいない方はご注意願います。

【ネタバレ】

タイトルとなっている宝島の宝とは、読み始めた当初は戦果アギヤーのいわゆる【戦果】のことだろうと思えます。ただ、キャンプカデナ襲撃の一味だったあるメンバーの死の間際の言葉で、逃走中にはぐれ消息不明になったオンちゃんが、無事に基地から脱出していたことと、当初予定に無かった別の戦果を持って帰ってきたことをグスクとレイは知ります。つまりこのときの戦果は、本来予定していた戦果、その時は武器や弾薬だったわけですが、それ以外の何かだったわけです。元々は、キャンプカデナから帰還しなかったオンちゃんの生死を含めた足取りを主人公の3人は追っていて、それを調べていくうちに、そもそもどうして危険を冒してまで警備が厳重なカデナ基地を狙ったのか、これまで盗んだことがない武器や弾薬を戦果に選んだのか、そして持ち帰った別の戦果とは一体なんだったのかなど、新たな謎を呼びおこします。

物語の終盤になってキャンプカデナの中にウタキ(御嶽)があったこと、これは古くからの沖縄信仰の神聖な場所のことを指すのですが、行方不明になったオンちゃんがその中で見つけたものこそが、謎となっている別の戦果であったのだろうと気づきます。

そこで私達(私だけで賢明な皆さんはもっと早くに気づいていたかも知れませんが)はようやく沖縄語の、命どぅ宝(ぬちどぅたから)「命こそ宝」に思い至ります。反戦運動のスローガンとして使われるこの言葉ですが、たしかに我らが英雄オンちゃんも言ってましたね。生きて帰ってくることが大事なんだと。

さすがは直木賞受賞作品。500ページを超える大作なので読み応えはありますが、面白いので一気に読んでしまいました。

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