【読書感想】彼岸花が咲く島

第165回(2021年上半期)芥川賞受賞、李琴峰(り ことみ)さん著の作品です。作者の李さんは、台湾出身で、日本語は15歳から学び始めたという変わった経歴をお持ちの才媛です。

あらすじ

記憶を失くした少女が流れ着いたのは、ノロが統治し、男女が違う言葉を学ぶ島だった――。不思議な世界、読む愉楽に満ちた中編小説。

ー『彼岸花が咲く島』李琴峰 | 単行本 – 文藝春秋BOOKS ー

読書感想

作者が台湾出身の方ということで、舞台はおそらく先島諸島の架空の島、参考文献に与那国島について書かれたものがいくつかあったのと、最初のページに出てくる挿絵の島の形状から、与那国島を架空の島に設定して書かれたのだろうと思います。

話の内容自体は難しいものではないのですが、ある種の方言(のようなもの)が気になり、と言うよりは読みづらく、内容量よりも読むのに時間がかかりました。特に前半は読みながら多少ストレスを抱えていたのも事実です。

ただ、この本の良さは後半にあります。

ー 以下、若干ネタバレを含みます。ー

漂着した女の子が、どうして島に流れ着いたのか、女の子の家族はどうしているのかなどの記述が無いまま、島での生活が始まります。確かに遠い昔の話であれば、絶海の孤島で連絡や交通の手段も無く、他に選択出来るものも無いので、否応なしにその土地の暮らしに馴染むということもあるでしょう。また、そうであれば多少の合点はいきます。

ですので、読んでいて時々昔の話を読んでいるような錯覚に陥るんですが、島には本土(ニライカナイ)から船便でたくさんの物資が届けられるし、島には車も走っています。そもそもその島がどの国に属しているのかもわからないんですが、その辺りがモヤモヤしたまま、新しい生活をすんなり受け入れる主人公というのは、たとえ記憶喪失でも無理があるのではないかと思います。

記憶を無くしたまま島での生活を続けて、成り行きからノロ(祝女、女性の神官)になることを宿命づけられる。将来記憶を取り戻した時にその境遇を受け入れたままでいいのか、その辺の細かいことが気になって仕方ない私には、この不思議な世界がなかなか理解できませんでした。物語の終盤に大ノロから島の歴史を学んで、ようやく島の秘密に触れることが出来るわけですが、そこまでは私同様にストレスを感じる方も多いのではないかと思います。

ともあれ、読む場合にはあまり偏見を持たずに、その世界観を素直に受け入れて、現代ではあるけれども遠い異国の地の物語であり、一方では今の日本や台湾などを取り巻く国際情勢と、それぞれの国が抱えている問題、そうしたことを内包している物語であると理解して読めば、なかなか示唆に富んだ芥川賞に相応しい作品だと納得できるでしょう。読み終えたあとに、考えさせられる名作でした。

コメント