【読書感想】オルタネート

加藤シゲアキさん著作で、第164回(令和2年/2020年下半期)直木賞ノミネート、2021年度本屋大賞第8位、第42回吉川英治文学新人賞受賞の青春群像小説です。作者の加藤シゲアキさんは、ジャニーズ事務所の人気アイドルグループ「NEWS」のメンバーであることも話題になりました。

あらすじ

高校生限定のマッチングアプリ「オルタネート」が必須のウェブサービスとなった現代。東京にある円明学園高校で、3人の若者の運命が、交錯する。調理部部長で品行方正、しかし、あるトラウマから人付き合いにコンプレックスを抱えるいるる。母との軋轢を機に、絶対真実の愛を求め続けるオルタネート信奉者の 凪津なづ。高校を中退し、かつてのバンド仲間の存在を求めて大阪から単身上京した 尚志なおし。出会いと別れ、葛藤と挫折、そして苦悩の末、やがて訪れる「運命」の日。3人の未来が、人生が、加速する――。

― 加藤シゲアキ『オルタネート』新潮社公式サイト ー

読書感想(若干ネタバレあり)

冒頭にも書きましたが、本書は人気アイドルグループのメンバーが書いた小説ということで、直木賞にノミネートされた時に相当話題になりました。アイドルが書く小説ということで色眼鏡で見られることも多いと思いますが、実際に読んでみての感想は、おそらく最初にアイドルだと聞いていなければ、普通の小説家だと思っただろうと言うことです。それもかなり筆力がある実力的にも文句の付けようがない作家だと感じました。

もっとも最近はアイドルも高齢化していて、同じくジャニーズ事務所所属で日本で一番人気があったであろう、昨年活動を休止した「嵐」も、ほぼアラフォーですから、それでアイドルというのはどうなの?という気はしなくもありません。

おそらく加藤シゲアキさんはアイドルと小説家という二足の草鞋をうまく履きこなしていると言えるでしょう。おそらく小説一本に絞ってもうまくいくのではないかと思います。

さて、本書に関してですが、これ以下は多少ネタバレも含みますので、まだ未読の方はご注意ください。

最初に書いたように、これは高校を舞台にした青春群像小説です。前回、記事にした伊吹有喜さんの「犬がいた季節」も同じく高校を舞台にしていますが、こちらは本屋大賞第3位になりました。青春時代の甘くほろ苦い経験というのは、ある程度歳を重ねた方なら誰もが思い出すことが出来るでしょう。だから、どちらも理解しやすく、印象としては懐かしく感じました。

まだその順位の差となった中間の作品を読んでいないので大きなことは言えませんが、3位が比較的上位で有ることと比べて、8位というのは全体として若干劣る印象がしてしまいます。もっともノミネートされるだけで凄いことなんですが、作品自体の良し悪しにそれだけの差があったかと言うと、私としてはそれほど感じませんでした。ただ、両者の順位の違いがどこにあるかと考えた場合に、構成や時代背景が伊吹有喜さんの「犬がいた季節」の方がわかりやすかったというのがあると思います。

巻頭に登場人物の紹介があるんですが、そこに容とダイキが親友と書いてあります。まず冒頭で、容が調理部でダイキが園芸部というのが出てきて、多分容は女子高生なんだろうと思いましたが、それと親友のダイキも女性なのか???と男女の友情を信じないオヤジの私はハテナが3つほど付きました。そのダイキと付き合っているとあるランディというのも、男名だよなとか考えていたら、やはりダイキは女なのかと思ったりして、それがLGBTの話なのかと納得するまで小一時間ほどかかりました。

そんなわけで最初はあまり馴染めなかったのですが、それが中盤から後半にかけてはとても面白くなっていきます。料理のレシピや音楽の表現、高校生だけが利用できるSNS「オルタネート」を背景にした描写なども非常に優れていて、物語自体は現代によくマッチしていたと思います。ただ、その一方で、これは作者に筆力があったためだと思いますが、逆に詰め込みすぎた感じがあります。

特に終盤のクライマックスに関しては、それぞれを別の話としてまとめた方が、その分読者は何度も余韻に浸れたのではないかと感じました。料理大会には料理大会なりの緊張感や焦り、葛藤がよく現れていたし、バンドのセッションに関しても然りで、どうしてこれを同時並行的にしてしまったのかと率直に思いました。

怒涛の展開ということで、お互いが相乗効果を生めば、それなりの効果が発揮できたのでしょうが、逆にそれがごった煮の印象を与えて、それぞれの良さを相殺してしまった感も拭えません。その辺りは人それぞれの捉え方ではあるのでしょうけれど、全体としてまとめるために、無理に登場人物を近づける必要も無かったのではないかと思います。

もっともそれが知らない誰かと繋がる今のSNSの時代だと言われればそうなのかもしれません。ひとつのことを集中してやるよりも、色んなことをやった方がいい時代になったのかもしれません。きっとアイドルと小説家という仕事をうまく両立させている筆者ならではの器用さも反映しているのでしょう。

ただ、これまでの本屋大賞を見てきた印象としては、上位になるためには多分に叙情的な作品であることが求められているように思います。そうすると自分の青春時代を思い返した時に、それほど多くの人と関わり合って来なかったよねとか、それでもその時の自分や時代は輝いてたよねとか、そういった情緒的な感傷に浸りたい部分もあるわけです。

だから、読みながらこれは本屋大賞向きではなくて、きっと直木賞向きだなと感じた一冊ではありました。読後感も決して悪くありません。アイドルが書いた小説なんてという偏見をお持ちの方でも、一度読んでみる価値がある良作だろうと思いました。

オルタネート
加藤 シゲアキ 新潮社 2020年11月19日頃
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