【読書感想】犬がいた季節

昨年、「雲を紡ぐ」で第163回直木三十五賞候補になった伊吹有喜さん著作の2021年本屋大賞ノミネート作品です。

あらすじ

1988年夏の終わりのある日、高校に迷い込んだ一匹の白い子犬。「コーシロー」と名付けられ、以来、生徒とともに学校生活を送ってゆく。初年度に卒業していった、ある優しい少女の面影をずっと胸に秘めながら…。昭和から平成、そして令和へと続く時代を背景に、コーシローが見つめ続けた18歳の逡巡や決意を、瑞々しく描く青春小説の傑作。

-株式会社双葉社|犬がいた季節-

読書感想

冒頭でご紹介した「雲を紡ぐ」を読んだときにも思ったのですが、この方の小説は作品全体に柔らかい空気が流れていて、読んでいてとても優しい気持ちになることが出来ます。先ほど挿入したインタビュー動画を見ても、とても穏やかで優しそうな人ですね。情景描写も非常に巧く、その光景がまざまざと目に浮かんで、すぐにその世界観に浸ることが出来ます。

内容的には、とある事情で高校で飼育されることになった犬がいた期間に飼育担当を任された、その時々の高校生を主人公にした連作になっています。特に青春時代と呼ぶに相応しい、15歳から18歳までの高校生活、それぞれの恋愛や家庭内の悩みなど、誰もが経験しているような甘くほろ苦い物語が綴られています。

その主人公たちの様子を犬が見ているという視点もありますが、青春群像劇ですから犬が登場しなくても成立する内容です。ただ、犬が登場人物たちの微妙な関係性を保つための重要な役割にもなっています。その辺は愛玩動物としての犬が持つ魅力の賜物なのでしょう。

著者の伊吹有喜さんは、私よりも少し下の世代の方なので、時代背景になっている史実は自分にも馴染み深いものがありますし、その時自分はどうだったかというのも思い出させてくれて、自分の青春時代を顧みる良いきっかけを与えてくれました。

逆に言うと、若い方だとまだ生まれてないとか、記憶が曖昧ということもあるでしょうから、多少とっつきにくいところがあるのかもしれません。時代背景はほぼ平成なんですが、私にとっては愛すべき昭和テイストの作品です。それでもきっと、どの世代の方の心にも響く感動作だろうと思います。

コメント