第165回(2021年上半期)直木賞と第34回 山本周五郎賞をW受賞した、佐藤究さん著作のハードボイルド系、クライムノベルです。
あらすじ
メキシコで麻薬密売組織の抗争があり、組織を牛耳るカサソラ四兄弟のうち三人は殺された。生き残った三男のバルミロは、追手から逃れて海を渡りインドネシアのジャカルタに潜伏、その地の裏社会で麻薬により身を持ち崩した日本人医師・末永と出会う。バルミロと末永は日本に渡り、川崎でならず者たちを集めて「心臓密売」ビジネスを立ち上げる。一方、麻薬組織から逃れて日本にやってきたメキシコ人の母と日本人の父の間に生まれた少年コシモは公的な教育をほとんど受けないまま育ち、重大事件を起こして少年院へと送られる。やがて、アステカの神々に導かれるように、バルミロとコシモは邂逅する。
読書感想
あらすじにもあるように、この小説は麻薬や臓器密売に絡む犯罪を描いた作品ですが、一般人には窺い知ることの出来ない裏社会を描いた作品でもあります。全編に渡って筆舌に尽くしがたい暴力シーンのオンパレードと言っても過言ではないくらい、その残虐シーンは随所に出てきます。ですから、万人向けかと言ったら、これはあまり良い子やお嬢さんには読ませたくない本と言ってもいいでしょう。
登場人物の多くが外国人で、それぞれに特有の呼称(あだ名)が付いてくるので、慣れないと少し混乱しますが、わりと助け舟的に誰のことを言っているのかわかるように書かれているので、特に前のページを捲って確認したりする必要はありませんでした。
そうは言っても550ページを超える長編ですので、読むのにはそれなりに時間がかかってしまいました。ひとたびその世界観に没入すれば、先が気になってついつい読んでしまうのですが、先ほども書いたように、暴力シーンや残虐シーンが圧倒的に多いので、そういうものが苦手な人には読んでいて辛い物語ではないかと思います。
穿った見方をすれば、これだけを今期の直木賞にすると色々と波紋を呼びそうだから、前回ご紹介した澤田瞳子さん著作の『星落ちて、なお』も同時入賞させたのではないかと思わせるくらい強烈なインパクトがあります。もっともそれは穿ち過ぎであって、『星落ちて、なお』も直木賞に相応しい作品であることは間違いありません。
今まで読んできた直木賞作品の中で、文学的な要素よりも、はるかにエンターテインメント性の要素を多く含んでいる印象を受けた作品でもありました。難しい言葉が並んでいるわけではないので、わりと読みやすい本だろうと思いますが、出てくるエピソードそのものが、その都度考えさせられたり、あるいは恐怖したり、実際にそんなことがあってもおかしくないと思わせる内容です。あるいは私達が到底想像できない世界で、実際に行われていることなのかも知れません。
おそらく直木賞の歴史に残る一冊ではないでしょうか。それくらい傑作なので、お時間のある方は、ぜひご一読を。
テスカトリポカ | ||||
|
コメント