【読書感想】首里の馬

第163回(2020年上半期)芥川賞受賞、高山羽根子さん著の作品です。今回は遠野遥さんの「破局」も受賞していますので、芥川賞が二作品となっています。

あらすじ

沖縄の古びた郷土資料館に眠る数多の記録。中学生の頃から資料の整理を手伝っている未名子は、世界の果ての遠く隔たった場所にいるひとたちにオンライン通話でクイズを出題するオペレーターの仕事をしていた。ある台風の夜、幻の宮古馬が庭に迷いこんできて……。世界が変貌し続ける今、しずかな祈りが切実に胸にせまる感動作。

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読書感想

タイトルから想像していたのは、最近火事によって焼失してしまった首里城に関するお話かなと思っていたんですが、それとはまったく関係がありません。芥川賞受賞の会見で、首里城の火事は執筆中に起きた出来事であったと報告されています。

主人公の女性(未名子)は、内向的で交友関係も広くないので、物語全体としては多少閉塞的な感じもあります。ただ、これからの未来に向けて歴史の小さな断片を整理し伝承することは、決して無駄なことではないと行動する姿は清々しくもあります。

閉鎖的でありながらも全体的に柔らかい雰囲気を醸し出している物語なので、世界観としては私個人はわりと好きな部類になりますが、ただ、主人公の仕事の特殊性や、その仕事で知りあった人達との関係、あるいはその人達の境遇、唐突に登場する馬など、ある意味奇異な印象を受ける部分も多いので、その辺をどう捉えるかによって感じ方も変わるのではないかと思います。

未名子が通っていた資料館がある場所は、首里の近くの外人住宅のある港川で、終盤に出てくる港川は港川人が発見された八重瀬町にある港川フィッシャー遺跡のある港川ですから、地理的にだいぶ離れています。未名子が資料館の持ち主である順さんからもらった人骨は、資料館の近くで発見されたものという記述がありますから、港川人のものではないのでしょう。ただ、終盤にその人骨から港川人の説明に移行しているので、そこになんらかの意味は持たせたかったのかもしれません。

琉球王国から日本の統治下に置かれ、第二次大戦後は日本に返還されるまでアメリカ領であったことなど、沖縄の歴史はまさに激動の歴史と言えます。その個々にまつわる資料は、それが後世の役に立とうが立つまいが、伝承することに意味があると未名子は考えます。

そして資料館に保存してあった資料をデータ化して、そのアーカイブを仕事で知りあった宇宙に住む人、南極の深海に住む人、紛争地域のシェルターに住む人たちに託します。小さく狭い資料館という空間から、なんとも壮大なスケールになっていますが、その辺もこの物語の面白さなのでしょう。芥川賞らしい良作でした。

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