【読書感想】六人の嘘つきな大学生

2022年本屋大賞第5位、浅倉秋成さん著作の書き下ろし小説です。作者の朝倉秋成さんは1989年生まれ、2012年にデビュー作『ノワール・レヴナント』で第13回講談社BOX新人賞Powersを受賞、本作『六人の嘘つきな大学生』も数多くの賞にノミネートされています。

あらすじ

成長著しいIT企業「スピラリンクス」が初めて行う新卒採用。最終選考に残った六人の就活生に与えられた課題は、一カ月後までにチームを作り上げ、ディスカッションをするというものだった。全員で内定を得るため、波多野祥吾は五人の学生と交流を深めていくが、本番直前に課題の変更が通達される。それは、「六人の中から一人の内定者を決める」こと。仲間だったはずの六人は、ひとつの席を奪い合うライバルになった。内定を賭けた議論が進む中、六通の封筒が発見される。個人名が書かれた封筒を空けると「●●は人殺し」だという告発文が入っていた。彼ら六人の嘘と罪とは。そして「犯人」の目的とは――。

「六人の嘘つきな大学生」 浅倉 秋成[文芸書] – KADOKAWA

読書感想

これも少しタイトルで損をしているような気がしますが、そのタイトルと上のあらすじからわかるように、この小説はミステリー小説になっています。私もはるかうん十年前に受けた新卒の入社試験。ここに出てくるようなグループディスカッションが選考課題として出されたこともありました。

ただ、その時は最終選考としてではなく、むしろ一次試験で出されたので、特に下準備もすることなく、ぶっつけ本番で受けた記憶があります。ですから、実際の仕事に関してというよりは、一般常識的なことが議題として取り上げられていましたが、普通の意見を言ってもつまらないよなという生来の天邪鬼気質が災いして、他の人達と真逆のことを言ったら見事に集中砲火を浴びて玉砕したという苦い思い出となっています。

そんな私の話は置いといて、この物語は非常によくできていると思います。少し構成が変わっていますが、それも読者をミスリードさせる仕掛けになっていて、あまり言うとネタバレになってしまいますが、内容的には人として頷ける部分や学生時代の仲間意識を思い出すようなほろ苦い気持ち、その一方で他人を蹴落としても自分が勝ち残らなければならない生存競争としての入社試験など、ドラマを見ているような展開が広がっています。

登場人物それぞれの半生の背景がうまく描写されていて、事件そのものも就職試験という設定の中では奇抜ではありますけど、特に仕掛けが秀逸で、推理小説として非常に面白いものに仕上がっています。

読後感も決して悪くありません。何よりも誰が犯人なのかとても気になって、あっという間に読み終えると思います。本来ならノミネートだけではなく、もっといろんな賞をとってもおかしくないんじゃないかと思える内容です。若干ノスタルジーに浸りながら楽しめた秀作でした。

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