【読書感想】この本を盗む者は

本書は深緑野分さん著作の2021年度本屋大賞ノミネート作品です。

あらすじ

書物の蒐集家を曾祖父に持つ高校生の深冬。父は巨大な書庫「御倉館」の管理人を務めるが、深冬は本が好きではない。ある日、御倉館から蔵書が盗まれ、父の代わりに館を訪れていた深冬は残されたメッセージを目にする。
“この本を盗む者は、魔術的現実主義の旗に追われる”
本の呪いブックカースが発動し、読長町は侵食されるように物語の世界に姿を変えていく。泥棒を捕まえない限り、世界が元に戻らないと知った深冬は、私立探偵が拳銃を手に陰謀に挑む話や、銀色の巨大な獣を巡る話など、様々な本の世界を冒険していく。やがて彼女自身にも変化が訪れて――。

ー 深緑野分『この本を盗む者は』特設サイト | カドブン ー

読書感想

いわゆる空想ファンタジー小説です。そもそもどうして呪いがかけられているのか、誰がどうやってかけたのかというミステリー部分はありますが、ブックカース(本の呪い)によって、作られた幻想世界での描写が多いです。と言っても、本が盗まれるところから各章始まりますので、舞台や登場人物は主人公が住む街や関係のある知人が変容した世界です。

本の内容によって世界が形成されるので、各章ごとにそれぞれ独立した内容になっています。ただ、まるっきりオムニバスかというとそうでもなく、こういった小説の通例として、それぞれが微妙に関係性を保ちながら最後に謎の部分も含めて回収されていきます。

とは言え、各章を全て把握しなければ物語として成立しないわけでもないので、どちらかというとその空想世界を楽しむための小説と思ったほうが良いのでしょう。私個人は昨年本屋大賞にノミネートされた「ムゲンのi」にだいぶ似た印象を持ちました。

こうした空想ファンタジーの場合は、その事象や行動、キャラクターも含めてある意味何でもありですから、その世界観に没入出来るかどうかというのが一番大きいのではないかと思います。換言すれば相性ですね。そうでないと作者の妄想に無理やり付き合わされているような苦痛や不快感を伴うことになります。

特に演出されるその世界は、ひと言で言えば荒唐無稽、奇想天外ですから、どこまでそれを許容できるかという読者の個人差があると同時に、どこまで読者を自然に物語に引き込ませることができるかという作者の力量にもかかってきます。とは言え、元々空想世界ですから、題材としてこの手のものは最初から読者を選んでしまうと思います。ただ、文芸本としてどうなのかというのと、内容そのものの面白さはまた別ではないかというのもあって、本書の面白さはむしろ漫画やアニメの方がよりわかりやすく描き出せるのではないかと思いました。と言いますか、アニメ向きでしょうね。その世界にはまる方にはかなり面白い作品だろうと思います。

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