【読書感想】夜に星を放つ

第167回(2022年上半期)直木賞受賞、窪美澄さん著作の小説です。作者の窪美澄さんは、1965年生まれ。2009年「ミクマリ」で、第8回女による女のためのR-18文学賞大賞を受賞。受賞作を収録した『ふがいない僕は空を見た』で2011年第24回山本周五郎賞を受賞。同作は本屋大賞第2位、本の雑誌が選ぶ2010年度ベスト10第1位に選ばれています。

あらすじ

かけがえのない人間関係を失い傷ついた者たちが、再び誰かと心を通わせることができるのかを問いかける短編集。

コロナ禍のさなか、婚活アプリで出会った恋人との関係、30歳を前に早世した双子の妹の彼氏との交流を通して、人が人と別れることの哀しみを描く「真夜中のアボカド」。学校でいじめを受けている女子中学生と亡くなった母親の幽霊との奇妙な同居生活を描く「真珠星スピカ」、父の再婚相手との微妙な溝を埋められない小学生の寄る辺なさを描く「星の随に」など、人の心の揺らぎが輝きを放つ五編。

ー『夜に星を放つ』窪美澄 | 単行本 – 文藝春秋BOOKSー

読書感想

私がこれまで読んできた直木賞作品の中でも、ボリューム的に一番少ない作品かと思います。内容は上のあらすじにあるように、それぞれの人間模様を描いた短編集になっていますが、特に連作になっているわけではありません。短編五編で総ページ数が220頁ほどですから、案外あっさり読めてしまいます。

タイトルを見ると星に纏わる話のようにも思いますが、内容的に星の重要度はそれほど高くないように思います。いわば比喩的に用いられていて、エッセンスと言うよりはスパイス的なものになっています。

それぞれの話がわりと共感できる、別の言い方をすれば、どれも既視感のある内容ですので、すんなりと受け入れられる代わりに、それほど印象にも残らないような気がします。

決して本書の内容が悪いわけではありません。むしろどの話も良い話だと思うのですが、なんでしょうか、これまで直木賞を読んできた身としては、圧倒的にボリュームが足りません。正直これが直木賞なのかという印象を持つほど、文学的なものを感じないのです。

冒頭の方で別の作品が本屋大賞の第2位と触れましたが、本書も直木賞受賞作品と言うよりは、むしろ本屋大賞ノミネート作品ではないかと思うくらい文学よりもストーリーありきの作品のように感じました。本屋大賞が大衆迎合的な大賞であるとするなら、直木賞はより文学的なものを追究して欲しいところ、なんとなく直木賞の方から本屋大賞にすり寄っていってるんじゃないかと思えるような印象を抱いてしまいました。

何度も言いますが、内容的に決して悪いわけではないのです。短編それぞれに味のある、読んだあとに余韻の残る内容にはなっています。そうなのですが、なんとなくわだかまりも残ってしまうのですよね。そういう意味では直木賞入門編としては良いのではないかと思うのと同時に、もしも本書で初めて直木賞作品に触れるという方がいたら、それですべてをわかった気にならないで欲しいとも思える佳作でした。

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