遠野遥さん著作、第163回(2020年上半期)芥川龍之介賞受賞作です。本年度は他に高山羽根子さんの、「首里の馬」も受賞されています。1991年生まれの遠野遥さんは、平成生まれで初めての芥川賞受賞者となります。
あらすじ
私を阻むものは、私自身にほかならない――ラグビー、筋トレ、恋とセックス。ふたりの女を行き来する、いびつなキャンパスライフ。
感想
この作品も評価が分かれるものと思いますが、あらすじに書いてある「いびつなキャンパスライフ」というのは、ちょっと違和感を覚えます。
短編なのであまり踏み込むと全部がネタバレになってしまいますが、わりと若者あるあるで、セックスを覚えたての頃はみんなこんな感じだったろうなとか、年齢的なことを考えれば、ある意味健全なキャンパスライフと言っても良さそうです。
著者は夏目漱石の文体をお手本に短編を書いては新人賞に応募していたとWikipediaにありましたが、たとえば、「坊っちゃん」のような自分の信念や価値観に疑いを持たずに猪突猛進していくようなタイプだと読んでいて清々しさを覚えますが、どちらかというとその時々の状況に応じて、できるだけ最善の方法をとろうとする主人公は、どことなく機械的というかAI的な感じもするし、あまり人間としての熱量を感じません。それでいて切れやすさや狂気を感じさせるのは、いかにも現代的ではあるとは思います。
彼女として出てくる二人も、その人となりというか感情的なものがあまり理解できずに消化不良になってしまっています。短編なので仕方のないところですが、セックスに対して貪欲なのはわかりますが、なぜか一方で生活感がまるで感じられず、主人公が見聞して考えたことを直接的に表現しているので、自分のこともまるで他人事のように俯瞰して描かれています。その表現手法は著者の文才を感じさせるものではありますが、読んでいて少し退屈になってしまいます。
これは私の勝手な思い込みですが、きっと新海誠監督の『君の名は。』を見て感動できるタイプの人にはそれなりに刺さるのではないかと思います。残念ながら私のような初老の人間には、なんというか全体的に薄味で、たしかに芥川賞受賞作っぽくはあるのだけれど、きっといつか内容も忘れてしまう作品なんだろうなというのが率直な感想です。
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