【読書感想】背高泡立草

第162回 芥川賞受賞作、古川真人さん著作の小説です。

あらすじ

草は刈らねばならない。そこに埋もれているのは、納屋だけではないから。
記憶と歴史が結びついた、著者新境地。

大村奈美は、母の実家・吉川家の納屋の草刈りをするために、母、伯母、従姉妹とともに福岡から長崎の島に向かう。吉川家には<古か家>と<新しい方の家>があるが、祖母が亡くなり、いずれも空き家になっていた。奈美は二つの家に関して、伯父や祖母の姉に話を聞く。吉川家は<新しい方の家>が建っている場所で戦前は酒屋をしていたが、戦中に統制が厳しくなって廃業し、満州に行く同じ集落の者から家を買って移り住んだという。それが<古か家>だった。島にはいつの時代も、海の向こうに出ていく者や、海からやってくる者があった。江戸時代には捕鯨が盛んで蝦夷でも漁をした者がおり、戦後には故郷の朝鮮に帰ろうとして船が難破し島の漁師に救助された人々がいた。時代が下って、カヌーに乗って鹿児島からやってきたという少年が現れたこともあった。草に埋もれた納屋を見ながら奈美は、吉川の者たちと二つの家に流れた時間、これから流れるだろう時間を思うのだった。

 ー 集英社 背高泡立草 ー

プロット

この小説は文体も内容もかなり難解な作品ではないかと思います。文章の言い回しもさることながら、何も考えずに読み進めていくと、流れからは一見無関係な話が突如出てきて戸惑ったり、主語が誰のものなのかわかりづらくて暫く考えたりする羽目に陥ります。実際に私は一度では理解することが出来ずに、何度も読み返しました。ただ、上のあらすじにあるように、現在から過去に遡っての話しで、それは歴史の重みを感じさせるものではあるけれども、そのひとつひとつの内容が特に重要な要素となっているわけではありません。現在の話と過去の話が交互に綴られているのですが、過去の話は、現代の会話の流れが引き金というか端緒になって展開されてはいます。しかし、逆にそれが現在の話に直接結びついているわけではないので、時に突飛に感じてしまうのです。

登場人物

それと同時に登場人物もわかりづらい。まず、現代の主な登場人物は、主人公でOLの「大村奈美」、その母親「美穂」、美穂の姉の「加代子」とその娘で奈美と同じ会社に勤める「知香」、と似たような名前が並び、これに美穂の兄「哲雄」と美穂の実母である「内山敬子」がいます。

家系図

 

図にするとこんな感じになってるのではないかと思います。奈美と哲雄の会話に、「わがの爺ちゃんの爺ちゃんの十三郎」とあるんですが、この「わが」が奈美のことを指すのであれば、高祖父(ひいひいじいさん)になると思うので、十三郎と祖父の智郎との間に、奈美にとっての曾祖父がいると考えられます。

次に章ごとに分けてみます。内容的にネタバレとまではいかないでしょうが、まだ読んでない方がどういう構成になっているのかを知るとか、一度読んだけど話の流れがさっぱりわからないという方に程よい情報ではないかと思います。

チャプター

船着き場(現在)

作品の導入部です。主人公の”奈美”が、その母親”美穂”の実家がある島に所有する(吉川家の)土地の草刈りに駆り出されるところから物語が始まります。草刈りをする場所は美穂の実家が所有する納屋の周りですが、話の鍵になるのは、むしろ吉川家が所有する家の方です。

雄飛熱(過去、戦中)

酒屋の看板を下ろしたばかりの十三郎が、満州に行った家族から、「古き家」を譲り受けるまでの話です。前章の奈美の言葉

「吉川家って、あの古い方の家にはいつから住んでたの?」

の説明章になっています。

昼(現在)

今は吉川家の不動産の引受人となっている内山敬子が住む内山商店が舞台。内山敬子の人となりの解説やこれから赴く草刈りの準備のための章です。

芋粥(過去、戦後)

十三郎が海で遭難した人たちを「古き家」で救護した時の話です。前章での敬子の話、

「土間の広かけん、戦争の終わってから、朝鮮に帰る人たちの乗っとる船の難破して、漁師さんたちの助けた時も、うちの土間にそん人たちば入れたことのあったとよ。」

の説明章です。

納屋(現在)

哲雄と加代子と美穂が草刈りに精を出し、奈美と知香がそれを後から手伝いに行く章です。

無口な帰郷者(過去、江戸時代)

鯨取りの話です。前章で哲雄の

鯨は江戸時代にはたくさん居って大体が島で鯨ば捕りよったけんな、あの、鯨だけば捕る網元のあって、油ば取って売りよったとぞ・・・・」

を受けての説明章です。

夕方(現在)

吉川家の「新しい家」の話です。ここで、奈美はまた草刈りの意味を考え、さらに敬子の家の隣にあり、かつては敬子の夫の身内が酒屋を営んでいたが、今は使われていない家を覗きます。

カゴシマヘノコ(過去、近い過去)

少年がカヌーに乗って島へ渡ってきた比較的近い過去の話です。前章で、「内山酒店」の土間の奥に置かれていた一人用のカヌーの説明章です。

帰路(現在)

無事に草刈りを終え、新しい家の空気の入れ替えも済んだ奈美と美穂と知香は家路につきます。ここで草刈りで刈った草を美穂に質問する時に、初めてタイトルの背高泡立草が登場します。

感想

おそらくこの作品は評価がわかれるのではないかと思います。文学作品としてそれらしい文体ではあるものの、全体的に惹きつけられる話のストーリーがあるわけではないし、かと言って、まったく退屈というわけでもない。おそらく筆者と同郷の九州の人、あるいはその地方や島の人たちが読めば、方言も随所に出てくるので非常に親しみやすい小説になっているのではないかと思います。

過去の出来事をオムニバスに捉えて、それを人類の営みや祖先への崇敬へと想念出来る方ならば共感する部分もあるのかと思いますが、過去の出来事を現在のストーリーに結びつけて捉えようとすると泥沼に嵌る気もします。上でやったように文学作品に対して章ごとに細分化するのが果たしてどうなのかという気もしますが、最初の方にも書いたように、分かりにくい、あるいは没頭しづらいと感じたのは私だけではないのではないでしょうか。

私のように、一度読んだだけでは理解出来ない人も、きっと何度か読み返しているとその良さがわかる作品だろうと思いますが、そこまでの時間と労力を厭わない方向けとも言えるでしょう。

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