2022年第20回『このミステリーがすごい!』大賞受賞、南原詠さん著作の小説です。著者の南原詠さんは、1980年生まれ、東京都目黒区出身。東京工業大学大学院修士課程修了の元エンジニアで、現在は企業内弁理士として勤務されています。作家としてはこの作品がデビュー作になります。
あらすじ
特許権を盾に企業から巨額の賠償金をせしめていた凄腕の女性弁理士・大鳳おおとり未来みらいが、今度は「特許権侵害を警告された企業を守る」ことを専門とする特許法律事務所を立ち上げた。
今回のクライアントは、映像技術の特許権侵害を警告され、活動停止を迫られる人気VTuber。
奔走するも追い込まれた未来は、いちかばちかの秘策に打って出る。
特許のスペシャリスト・弁理士の豪腕が炸裂する!
読書感想
前回の『このミス大賞』受賞作品、「元カレの遺言状』と同様に、上から目線の女性版「俺様キャラ」の弁理士が主人公のミステリー小説です。
権利関係を扱う小説は、その殆どが法曹関係の人が主人公になりますが、これはこれまでとは少し変わった弁理士が主人公の小説です。主人公が所属しているのは弁護士と共同で設立した特許法律事務所ですが、本作では弁護士の活躍は殆どなく、この強気女性弁理士の活躍が主に描かれています。
弁理士というのは特許や商標などの「知的財産権」に関するエキスパートで、理系最難関の資格とも言われています。弁護士と1字違いなので誤解しやすいですが、特に特許関係については理系出身者が多くを占めています。特許として出願する発明の多くは最先端の科学技術を駆使したものが多いので、それを理解出来る能力や説明できる能力が求められるからです。
本作では、その特許に関する専門家、弁理士大鳳未来が、著作権VTuber事業の経営者から依頼を受け、その解決に奔走します。
まず、弁理士が主人公というのが目新しく、また著作権に関してVtuberというこれも時代を反映した題材を用いたところが斬新です。文中にも出てきますが、YouTuberならわりと想像しやすいところを、VTuberという一般の人にはあまり馴染みのないものを取り上げながら、それを著作権とうまく絡めながら、わかりやすいように話を進行しています。
これは受賞後にある程度改訂している部分もあるのでしょうが、読みながら主人公がどうやって問題を解決していくのか非常に興味深く、感心させられる展開になっています。
また細かな背景描写が少なめで、記述の殆どが会話になっているので、話がスピーディに展開しています。上から目線の女性を好むかどうかという問題もありますが、これもまた時代を反映しているのでしょう。題材が著作権という特殊な権利なのでシリーズ化するのは難しいかもしれませんが、もし可能であれば続編も読んでみたいと思わせる秀作でした。
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