【読書感想】サガレン 樺太/サハリン 境界を旅する

2020年(第3回)Yahoo!ニュース 本屋大賞 ノンフィクション本大賞ノミネート、梯久美子さんの著作です。サガレンとは今で言うサハリンのこと。日本名は樺太です。北海道のすぐ北にありますが、北方領土と違って、あまりニュースなどでも取り上げられることがないため、今の日本人にはあまり馴染みのない島になっていますが、かつては島の南半分が日本領だったこともあり、その当時敷設された鉄道が今も利用されているなど、日本との関わりも多い島です。タイトルの「サガレン」は、本書の第二部で多く語られている宮沢賢治時代に呼ばれていたサハリンの呼称です。

あらすじ

かつて、この国には“国境線観光”があった。
樺太/サハリン、旧名サガレン。
何度も国境線が引き直された境界の島だ。
大日本帝国時代には、陸の“国境線“を観に、北原白秋や林芙美子らも訪れた。
また、宮沢賢治は妹トシが死んだ翌年、その魂を求めてサガレンを訪れ、名詩を残している。
他にもチェーホフや斎藤茂吉など、この地を旅した者は多い。いったい何が彼らを惹きつけたのか?
多くの日本人に忘れられた島。その記憶は、鉄路が刻んでいた。
賢治の行程を辿りつつ、近現代史の縮図をゆく。
文学、歴史、鉄道、そして作家の業。全てを盛り込んだ新たな紀行作品!

ー KADOKAWA公式サイト ー

読書感想

あらすじでは新たな紀行作品となっていますが、読んでいるうちにこれはいったい何に付いて書かれた本なのだろうとだんだんわけがわからなくなります。各紙で絶賛という謳い文句がありますが、正直私には全然刺さりませんでした。唯一共感できたのが、故大滝詠一氏の「さらばシベリア鉄道」が名曲であるという点くらいですが、あの曲も大滝詠一ファンならよくご存知と思いますが、とある曲のほぼ丸パクリに近い曲ではあります。ただ、宮沢賢治が妹を亡くして悲嘆にくれている姿は、盟友松本隆が同じく妹を亡くしたときに出来た名曲「君は天然色」に通じるものがあるなとか、正直本書の内容に乗れなかった分、余計なことばかり考えていました。

前半はまだ樺太取材の紀行文的な要素はありますが、第二部の、「宮沢賢治の樺太」をゆく、に関しては、これはもうただの宮沢賢治論で、樺太もどちらかというと単なるバックグラウンドの感があります。おそらく宮沢賢治ファンにとっては共感出来る部分は多いのかも知れませんが、鉄道ファンには物足りなく、ガイドブックとしても役に立たず、あっちこっちに話が飛んで、紀行文というよりは宮沢賢治の研究本と言ったほうが良いだろうと思います。

全体的に引用が多すぎて、読んでいるというよりは読ませられている気分になります。それもこれも私自身が宮沢賢治のことは「雨にも負けず」の一節くらいしか知識がないからだと思いますが、それにしてもこれを紀行作品というのはどうなの?という気は正直します。分類としてはたしかにノンフィクションなのでしょうが、サブタイトルにある境界を旅するに至っては、最初の取材旅行で真っ暗な中を寝台車に乗ったまま昔の国境を越えてるだけですし、2回めの取材旅行で賢治の旅をする時も、その足跡を辿るつもりが鉄道が全線運休していたために自動車で移動していますから、鉄道本にもなってません。

雑誌の連載だったのでスケジュール的に電車が動くまで待つことは出来なかったのでしょうが、電車と自動車では車窓からの景色も、受ける感銘もまったく違ったものになるはずです。

著者もロシア語を話せないために、紀行といってもガイド付きのツアーみたいになってますから、それで旅愁が誘われるかと言われたら正直微妙でしょう。旅行記を読もうと思ったら、ブログやフォートラベルとかで実際に旅行した人の記事を読んだほうが余程ためになりますし、旅系YouTuberも多いですから、そっちを見たほうが臨場感を味わえます。

これをサハリンの鉄道本とか紀行文として読むと大いに期待を裏切られると思いますので、最初から宮沢賢治論と思って読んだほうが消化不良をおこさずに済むのではないかと思います。

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