【読書感想】君のクイズ

2023年本屋大賞第6位、第76回 日本推理作家協会賞[長編および連作短編集部門]を受賞した小川哲おがわさとしさん著の小説です。著者の小川哲さんは、『地図と拳』で、第168回直木三十五賞を受賞しています。

あらすじ

生放送のTV番組『Q-1グランプリ』決勝戦に出場したクイズプレーヤーの三島玲央は、対戦相手・本庄絆が、まだ一文字も問題が読まれぬうちに回答し正解し、優勝を果たすという不可解な事態をいぶかしむ。いったい彼はなぜ、正答できたのか? 真相を解明しようと彼について調べ、決勝戦を1問ずつ振り返る三島はやがて、自らの記憶も掘り起こしていくことになり――。

― 朝日新聞出版 最新刊行物:書籍:君のクイズ ー

読書感想(多少ネタバレあり)

以前著者の直木賞作品「地図と拳」を手に取ったときには、そのページ数の多さに圧倒されましたが、今回はそれとは逆に短編と言っても良いくらいに簡潔に纏められています。むしろ前回のインパクトが大きかった反動があるのかもしれません。

ここからちょっとネタバレがあるので、未読の方はご注意ください。

物語の展開はあらすじにあるように、クイズ挑戦者の主人公が、相手選手の「ゼロ文字押し」から正解を解答するという、想像としてはそれほど奇抜ではないけれども、実際に行われたら誰もが「やらせ」を連想し、クイズとしては成立しないことに対して、主人公がその真実に迫っていくという構成になっています。

作中に使われている問題や解答は、実際にあるラジオ番組や企業名だったりするので、馴染みのある人やあるいは関係者の方だったら歓喜しているかもしれませんね。作者の小川さんも千葉県出身ということなので、その地方出身者にとって親しみのあることや物には題材として取り上げやすい部分があったかもしれません。

ゼロ文字解答の正解に関しても、東京住まいの私からすると「なんじゃそりゃ」というものなんですが、地元の人からすると知っていて当然という有名なものなのでしょう。そして、その地元の人、あるいは馴染みのあるモノ、事柄が、今回のクイズのテーマでは非常に重要なファクターとなっています。

昔は視聴者参加番組ということで、クイズは数多く放送されていましたが、最近のクイズ番組の殆どは芸能人や、東大生などのようにほぼレギュラーが解答することが多く、いわゆる一般の視聴者が参加する形式のものはほとんど無くなりました。

唯一残っていたと言ってもいい、『パネルクイズ アタック25』も2021年に放送を終了してしまいました。私が子供の頃は、古くは『アップダウンクイズ』から、『クイズグランプリ』がフジテレビで平日の毎晩、帯放送でやっていましたし、小学校時代のお昼には教室のテレビで、『ベルトクイズQ&Q』を見たり、高校さぼったときには柳生博さんの『100万円クイズハンター』見てたりと、わりとクイズはよく見ていた気がします。「文学・歴史の20」とか、「芸能・音楽の30」とか懐かしいですね。「文学・歴史」などは読みが長いので、途中から「ぶんれき」と略されたりもしてたように思います。『アップダウンクイズ』は優勝するとハワイ旅行が貰えるということで、飛行機のタラップを模したような階段を、当時のスチュワーデスに扮したアシスタントがレイを持って上がっていくんですが、その時のアングルがいわゆる覗きアングルみたいで、妙に興奮した覚えがあります。もっとも、そんなことはどうでもいいですね。ほとんどのクイズ番組が、「早押し」形式でしたが、そんな中で『クイズタイムショック』は制限時間内に12問のクイズに挑戦するという異質なものでした。田宮二郎さんの司会で、「現代は時間との戦いです」から始まる流暢なフレーズやクイズ開始時の「タイムショック」の掛け声は、かっこよかったですね。ただ、それらの数あるクイズ番組の中でも、やはり一番記憶に残っていて面白かったのは、『アメリカ横断ウルトラクイズ』ですね。これにはご賛同いただける方も多いでしょう。

それは本書とは全く関係ない話なんですが、物語は実際のクイズプレイヤーの方から話を聞いたり、東大卒でクイズ関係の会社を立ち上げた伊沢拓司さんの著作などを参考に書かれているので、読みながら自分もクイズを解いているような気分になります。

特に早押し問題に関しては、問題文の途中で解答する場合も少なくありませんが、それもクイズプレイヤーからしたら、その時点でほぼ解答が確定している「確定ポイント」があるので、「確定押し」になっているとか、あるいは正解を確信してからではなくボタンを押してから考えるとか、色々と面白い話が紹介されています。ということで、謎としては、あらすじにあるようなゼロ文字解答が推理からなのか、はたまたヤラセなのかというのが、唯一最大の謎なんですが、それは本書を読んでのお楽しみです。

最初に書いたように、短い小説ですのであっという間に読み終わると思います。その時に出されたクイズ問題から自分の人生を振り返って考察する、クイズプレイヤーからの視点というのが斬新で面白い佳作でした。

コメント