【読書感想】女帝 小池百合子

ノンフィクション作家石井妙子さん著のYahoo!ニュース|本屋大賞 2020年ノンフィクション本大賞ノミネート作品です。言わずとしれた現東京都知事小池百合子氏について書かれたドキュメントです。特に難しい言葉も使っておらず、非常に平易な文章なのでボリュームはたっぷりですが楽に読むことが出来ます。

内容紹介

コロナに脅かされる首都・東京の命運を担う政治家・小池百合子。
女性初の都知事であり、次の総理候補との呼び声も高い。

しかし、われわれは、彼女のことをどれだけ知っているのだろうか。

「芦屋令嬢」育ち、謎多きカイロ時代、キャスターから政治の道へーー
常に「風」を巻き起こしながら、権力の頂点を目指す彼女。
今まで明かされることのなかったその数奇な半生を、
三年半の歳月を費やした綿密な取材のもと描き切る。

『女帝 小池百合子』石井妙子 | 単行本 – 文藝春秋BOOKS

読書感想

本書の内容をひと言で言えば、政治好きで千三つ屋の父親に育てたられた芦屋の似非令嬢が、親譲りの舌先三寸と持ち前の愛嬌でうまく男社会を歩き渡り、政治の世界においても海千山千の剛の者となって都知事にまで登りつめた女傑の話とでも言ったところでしょうか。もっとも、彼女は最高権力者を目指しているのでしょうから、都知事で登りつめたというのは表現としては違っているでしょう。

国会議員時代から、「政界渡り鳥」とか「ジジ殺し」と揶揄されていた小池氏ですから、元々人心掌握術には長けていたのでしょう。本書では謎多きカイロ時代に同じアパートに同居していた女性の証言も交えて、胡散臭いカイロ大学主席卒業に疑問を投げかけています。それについては先に週刊誌の記事として取り上げられ、小池百合子氏自身も卒業証書や卒業証明書をマスコミを通じて出して反論していますが、そのどれもが不鮮明で疑義を解消するほどには至っていません。

ちなみにカイロ大学側は卒業したとする声明を発表しています。

とは言え、エジプトにとって日本は大事な貿易国、と言うよりは支援国ですから、かつての政権で大臣まで経験した人を擁護するのはむしろ自然でしょう。

おそらく本書に書いてあることは、ほぼ本当のことでしょう。そうなると公職選挙法違反で今の職も辞さなくてはならないはずですが、そうなる可能性は低いのでしょうね。カイロ大学を卒業してようがしてまいが、その言語力を見ればそれが本当のことかどうかなどは大学に問い合わせるまでもなく、嘘は見抜けるでしょう。

政治の世界は私達が思うよりもはるかに汚れた世界でしょうし、その時の駆け引きや権謀術数に長けた人が生き残るサバイバルゲームでもあるのだと思います。

それぞれのエピソードもニュースなどで伝え聞いていることに沿って書かれているので、読んでいてとても合点のいく内容です。その中でも特に印象深いのは、国政に再び戻ろうとして失敗した「排除する」のひと言でしょうか。

折しもつい昨日、かつて政界の中心にいた森喜朗氏が、その失言によって東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長を辞任するというニュースが入ってきました。そのトドメを指したのが小池都知事であるということで、本当は森氏の勝手なオウンゴールなのに、また株を上げたのではないでしょうか。元々遺恨、怨恨、色々あった二人でしょうが、内容も女性蔑視発言という、森氏なら普通に言いそうなことを見事に捉えられてのことですから、小池氏の人気上昇にはさらに追い風になっていることでしょう。

機を見るに敏、まさに男勝りの性格で、女の武器もうまく使いこなしてスキを見せないのは、女性政治家の中でも稀有な存在と言えるでしょう。都知事としても、その前任者、さらにはその前の都知事も金の問題で失脚しているのに、これも週刊誌の記事を取り上げたつい先程のネットニュースでは、知事の中で一番給料が安いということでクリーンなイメージ作りに成功しています。

ただ、派手なパフォーマンスは一流なのに、政治家としての仕事ぶりはどうかというと、正直あまり評価できるものがないように思います。その辺も本書が暗に指摘している人間小池百合子の本質が現れているような気がします。問題なのは、それでも人気があるということと、これと言った政治理念も政策もない嘘で固めた虚飾の政治家であっても、それに対抗、凌駕出来る本物の人材が日本にはいないということなのでしょう。

話が脱線したので本書の話に戻しますと、比較的検証しやすい留学からの帰国以降は、史実に沿って話が進んでいるので、その内容に得心出来る部分は非常に多いです。ただ、全体の流れが、彼女のカイロ大学卒業は虚偽である=彼女はその他にも数多くの嘘をついてきた、根っからの嘘つきである=人として信用できないという論法なので、そのことに共感出来ることは多いけれど、そもそもの本丸であるカイロ大学卒業の嘘を徹底的に暴くか、それ以外の不正を見つけて立証出来なければ、残念ながら、たんに疑惑があるというところで終わってしまいます。

その一方で、彼女の資産や側近との関係に関しての追究が若干甘い感じもするので、その辺りはもう少し掘り下げて欲しかったかなとも思います。

しかしながら、本書を上梓するにあたっては、筆者はもとより、かつて同室で同棲していたとされる女性も相当な勇気が必要だったろうと思います。そういった点も含めて、小池都知事のことがよくわからないという都民の方は一度読んでみる価値のある一冊だと思います。

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