【読書感想】ワイルドサイドをほっつき歩け ーハマータウンのおっさんたちー

Yahoo!ニュース|本屋大賞 2020年ノンフィクション本大賞候補だったブレイディみかこさん著作のノンフィクションです。著者のブレイディみかこさんは、「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」で、前年度のノンフィクフォン本大賞を受賞しています。

あらすじ

EU 離脱の是非を問う投票で離脱票を入れたばっかりに、残留派の妻と息子に叱られ、喧嘩が絶えないので仲直りしようと漢字で「平和」とタトゥーを入れたつもりが、「中和」と彫られていたおっさんの話……

本を読むことを生きがいにしていたのに緊縮財政で図書館が子ども遊戯室の一角に縮小され、それでも諦めずに幼児たちに囲まれながら本を読むうち、いつしか母子たちに信頼されていくこわもてのおっさんの話……などなど、笑って泣ける21篇。

ー筑摩書房 ワイルドサイドをほっつき歩け―ハマータウンのおっさんたち ブレイディみかこー

読書感想

2年連続でノンフィクション大賞にノミネートされたということで、著者の筆力は間違いないと思いますが、前年度大賞を取った「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」が新しい育児本としていまだに売れているようですね。本書も軽妙な語り口で面白おかしく身近な友人のおっさん、そして時にはそのパートナーやおばさん達を紹介したエッセイ集になっています。

著者の年齢が私に近いこともあって、共感できる部分も多く、価値観が似た人ならツボに嵌る人も多いのではないかと思います。

エッセイ集なので面白さはその章ごとにご自身で体感していただけたらと思いますが、最初に本書を手にとったときにいくつかわからない部分があったのでちょっと解説します。

ワイルドサイドってどっちサイド?

まずタイトルのワイルドサイド。これは、なんとなくニュアンスとしてそのまま受け取るものなのでしょう。内容がいわゆる労働者階級のお友達のおっさん達の話で、見た目はいわゆるワイルドな風貌なお友達が多いことから、そのイメージから来ているのでしょう。外見は野性味があったり、いかつい様だったり、強面だったり、そういうことの象徴的なところから、そっちの側をおとなしくまっすぐ歩けというよりは、あっちにフラフラ、こっちにフラフラしながら歩いていけという著者ならではのおっさん応援歌と言ったところでしょうか。

ハマータウンはどこなのか?

それと副題にもなってるハマータウンのおっさんたちのハマータウン。このハマータウンってどこなの?と思ってネットで探し回りましたが、アメリカにはありますがイギリスにはありませんね。著者が居住しているのはイギリスのブライトンという海辺の都市ですから、ひょっとして「浜タウン」が「ハマータウン」になったのかとも思いましたが、それも違います。もともとイギリスの社会学者ポール・ウィリス(Paul E. Willis)が著した、「ハマータウンの野郎ども」(原題 “Learning to Labour: How Working Class Kids Get Working Class Jobs”)が背景にあり、その内容が労働者階級の家庭の子供たちを取り上げた教育学研究になっていて、そこに登場するのがハマータウン中学という仮名の学校のようです。本書はちょうどその頃の中学生たちがおっさんになったのと同世代の人たちなので、ハマータウンのおっさんたちということになったのでしょう。

この方、きっと人が大好きなんでしょうね。ご自身はイギリスへの移民者になったときに多少なりとも偏見とか差別的な扱いも受けたということが書いてあったりもしましたが、異国の地でこれだけユーモラスなおっさん達と仲良くお友達になれるということは、その文才以上に人柄が良いのでしょう。もしかすると、そのおっさん達はイギリスの典型的な労働者階級のいわゆる普通の人たちなんだけれども、それがこの方にかかると、とてもチャーミングで面白い人たちに変貌するのかも知れません。

内容的にはそうしたいわゆる普通のおっさんたちの悲喜こもごもが多いのはたしかなんですが、それよりも最近ニュースを賑わしたEU離脱(通称ブレグジット)やイギリスの医療制度である「NHS」のことや、それとブレグジットとの関係などが勉強になりました。

きっと読んで損はない本だと思います。出張のおともや通勤の帰りにさらっと読むのにオススメできる良書でした。

 

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