2020年Yahoo!ニュース 本屋大賞 ノンフィクション本大賞にノミネートされた高橋ユキさん著の作品です。通称『山口連続殺人放火事件』を題材に、フリーライターの著者が事件の本質に迫ります。
あらすじ
2013年の夏、わずか12人が暮らす山口県の集落で、一夜にして5人の村人が殺害された。犯人の家に貼られた川柳は〈戦慄の犯行予告〉として世間を騒がせたが……それらはすべて〈うわさ話〉に過ぎなかった。
気鋭のノンフィクションライターが、ネットとマスコミによって拡散された〈うわさ話〉を一歩ずつ、ひとつずつ地道に足でつぶし、閉ざされた村をゆく。
〈山口連続殺人放火事件〉の真相解明に挑んだ新世代〈調査ノンフィクション〉に、震えが止まらない!
読書感想
平成の八つ墓村とも言われる事件を追った内容ですが、元々は雑誌のボツネタだったものを、WEBサービスの「Note」に連載したところ、それがインフルエンサーの目に止まり、反響を読んで書籍化に繋がったということで、前半部分はその「Note」に書かれていた内容になります。
途中に写真が挟んでありますが、モノクロ写真だとそれだけでオドロオドロしい感じがしてきます。その一方で、文明の利器と言いますか時代の流れとも言いますか、関係者や逮捕当時の様子などの写真もネットにたくさん残っていますし、Googleマップなどで事件の現場の様子も窺い知れたりもします。
犯人宅のブルーシートなどはストリートビューで見ることも出来ますし、文中に出てくる『魔女の宅急便』が描かれた屋根なども見ることが出来ます。今もそこで生活している人の写真などを見ると、色々と複雑な心境にもなりますが、その一方でノンフィクションが売れなくなったという理由が垣間見れるようでもあります。
事件そのものはニュースで散々取り上げられているので、ご記憶にある方も多いでしょう。この手の事件に真実を求めることの徒労感や失望感は最初から予想できたものの、特に怨恨による殺人事件の場合には、真実は犯人の胸の内に巣食うものであって、第三者が得心する結論に至るのは難しいものだろうと思います。
本書は、殺人放火事件の発端が、村人たちの「うわさ話」によるのではないかと、その事件の真相に迫るものですが、限界集落とも言われるこれだけ辺境の地で、余所者である著者がよく調べたと言えるのではないかと思います。
特に娯楽の無い田舎で、さらに少人数の郷の中でうわさ話が格好の趣味になっている人たちが多いのは無理からぬことだろうと思うのと同時に、それがまた「人間の業」だろうと思うと、数えるほどしか人がいない集落であるが故に、余計にうすら寒さを覚えます。
犯人の死刑判決によって一区切りのついた事件ではありますが、こうした事件のルポルタージュに興味のある方にはお勧めの一冊です。
つけびの村 | ||||
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