第168回(2022下半期)直木賞受賞、千早茜さん著作の小説です。略歴によると著者の千早茜さんは、1979年北海道江別市生まれ。父親の仕事の関係で小学校1年生から4年生まで、アフリカ・ザンビアのアメリカンスクールに通っていたそうです。立命館大学文学部人文総合インスティテュート卒業後、現在は京都府に住んでおられるようです。
2008年『魚神』で第21回小説すばる新人賞を受賞し、作家デビュー。同作は2009年に第37回泉鏡花文学賞も受賞しました。2013年『あとかた』で第20回島清恋愛文学賞を、2021年『透明な夜の香り』で第6回渡辺淳一文学賞、本作『しろがねの葉』で第168回直木賞を受賞しました。
あらすじ
戦国末期、シルバーラッシュに沸く石見銀山。天才山師・喜兵衛に拾われた少女ウメは、銀山の知識と未知の鉱脈のありかを授けられ、女だてらに坑道で働き出す。しかし徳川の支配強化により喜兵衛は生気を失い、ウメは欲望と死の影渦巻く世界にひとり投げ出されて……。生きることの官能を描き切った新境地にして渾身の大河長篇!
読書感想
あらすじだけ読むと戦国時代劇のような印象も受けますが、主人公ウメと鉱山(本作では石見銀山)で働く男たちの物語です。
闇や暗い穴の象徴として間歩(まぶ)が頻繁に登場しますが、この間歩というのは坑道のことです。もしかすると本作では女性を表す暗喩としても使われていたのかも知れません。
本書を読み始めて、最初は、男社会に虐げられた女性の悲憤を描こうとしているのかとも思いましたが、たんにそういうことではなく、銀山で働く男(銀堀)やその女房たちが、鉱山病という避けることのできない運命に翻弄されながら、それでもなおそこに根ざした生き方しか出来ない、あるいは共に生きていこうとする世界が描かれています。
今はユネスコの世界遺産として有名な石見銀山ですが、どちらかというと地味な世界遺産の印象もあり、観光客も世界遺産登録直後から減少しているということで、なかなか日の目が当たることはありませんが、本作を読んでいると当時に生きる人々の生活が前の前で繰り広げられているようで、その世界観に没入することが出来ます。
時代小説なので若干漢字の読みに難儀することもありますが、たいていフリガナが振ってあるので、あまり細かいところを気にせずに読んでいけば、いずれはわかるようになっています。ただ、こうした小説の類として、必ずしも最初に出てくる難読漢字にルビがふってあるわけじゃなくて、2回目、3回目だったりするので、気になる場合は先に漢和辞典で調べてもいいかもしれません。
性的描写もあるのであまり子供向けとは言えないと思いますが、それほど露骨な表現でもありません。むしろ主人公のウメの性格が男勝りでサバサバしているので、作品自体の悲愴感は大いにありますが、読んでいて苦になりません。主人公の力強い生き方に共感する女性も多いのではないでしょうか。読後感も良い、多くの人にお勧めしたい直木賞受賞作品でした。
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