2020年Yahoo!ニュース | 本屋大賞 ノンフィクション本大賞にノミネートされた濱野ちひろさん著作のノンフィクションです。残念ながらノンフィクション本大賞には選ばれませんでしたが、本作は第17回開高健ノンフィクション賞を受賞しています。
あらすじ
犬や馬をパートナーとする動物性愛者「ズー」。
性暴力に苦しんだ経験を持つ著者は、彼らと寝食をともにしながら、
人間にとって愛とは何か、暴力とは何か、考察を重ねる。
そして、戸惑いつつ、希望のかけらを見出していく──。【目次】
プロローグ
第一章 人間と動物のアンモラル
第二章 ズーたちの日々
第三章 動物からの誘い
第四章 禁じられた欲望
第五章 わかち合われる秘密
第六章 ロマンティックなズーたち
エピローグ
あとがき
読書感想
過去にDVに悩まされた経験のある著者が、動物をセックスの対象とするズーフィリア(動物性愛)の人たちの取材を通して、その本質を解き明かそうとした意欲的な作品です。冒頭の筆者のDV体験にまず驚き、そこから大学院での研究課題であったズーフィリアの取材調査に展開していきます。
タイトルの「聖なるズー」というのは、筆者が取材したドイツの動物性愛者団体であるゼータが、他のズーフィリアたちから動物性愛に関しては聖人君子であると揶揄されていることに由来します。セックスの対象の多くは犬になりますが、その関係は支配ではなく、あくまで対等。自ら求めるのではなく求められる行為を受け入れるパッシブパートが多いというのがその理由の一つです。性欲の捌け口として動物を使うのではなく、動物の方から求められるからそれを受け入れるというのですね。
さて、本書を読んでいて私は結構苦痛に思う部分がありました。と言うのは、過去に動物に対する何かのトラウマがあったりとか、セックスに対して大いなる偏見があるからというではなく、逆に動物性愛というものにまったく関心が持てなかったからです。きっと社会的にも世間的にも、「変態」とか「異常」と思われて終わってしまうことなのだろうと思います。
書いてある内容はよく分かるのですが、単純に犬やあるいはそれ以外の動物をセックスの対象として見るというのがまず無いこと。そしてそのことを理解したいとも思わないこと。一方で、そういう性癖の人たちがいてもそれはそれでいいんじゃないかと思っていること。要は著者のように、動物性愛の研究に没頭しなければならない理由が無いために、そういうこともあるんだろうなとか、それはそれでいいんじゃないかという、有り体に言えばどうでもいいことと思っているからです。
おそらくそれは私自身が特にペットも飼っていないことや、最近よく聞くLGBTや性的マイノリティも個人の自由で好きにすればいいんじゃないかという、いわゆる無関心さから来ているのでしょう。もっとも、そういう人たちとお友達になって仲良くしたいかと問われたら少々複雑ですし、子孫繁栄や国家の継続という観点から見れば、普通に男女が恋愛して結婚して子供を作ってくれたほうがいいに決まってると思う一般人です。
ただ、それは著者も同様で、指導教員から獣姦をテーマにとりあげてみたらと提案されるまでは、想像の外だったようで、逆にそのテーマでの研究を深めてから、自らのセックス、もしくはアイデンティティに目覚めている印象は抱きました。自分自身、辛い経験を持ちながら、ドイツでの性の祭典のようなイベントにまで参加する積極性や勇気には感心すると同時に、社会的には認められておらず、自分が信じる相手にしか本心を打ち明けらないと吐露するズーフィリアたちの懐に飛び込んで、その内面を深く探った取材力には敬意を表します。その点からも、たんなる好奇心ではなく、他人や動物の性に対しても真面目に寛容な心で読む必要のある良書だと思います。
聖なるズー | ||||
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