第166回(2021年下半期)直木賞受賞、第12回山田風太郎賞受賞、2022年本屋大賞第9位、その他4大ミステリランキング完全制覇と数々の賞に輝いた、米澤穂信さん著作の歴史小説というよりもミステリー小説です。
作者の米澤穂信さんは、1978年岐阜県生まれ。2001年、『氷菓』で角川学園小説大賞奨励賞(ヤングミステリー&ホラー部門)を受賞してデビュー。11年『折れた竜骨』で日本推理作家協会賞を、14年『満願』で山本周五郎賞を受賞しています。
あらすじ
本能寺の変より四年前、天正六年の冬。織田信長に叛旗を翻して有岡城に立て籠った荒木村重は、城内で起きる難事件に翻弄される。動揺する人心を落ち着かせるため、村重は、土牢の囚人にして織田方の智将・黒田官兵衛に謎を解くよう求めた。事件の裏には何が潜むのか。戦と推理の果てに村重は、官兵衛は何を企む。
読書感想
上のあらすじよりも先に埋め込んだ動画を見るほうが内容はわかりやすいかと思いますが、表紙絵のタイトル、黒牢城の部分に黄色い文字の英語で小さく「Arioka Citadel case」(直訳すると「有岡城事件」)と書いてあるように、織田信長との戦を語る歴史小説ではなく、有岡城の戦いの籠城中に起きる様々な事件を推理するミステリー小説になっています。
城の周りを織田方に囲まれた状況で起きる事件ですので、全体的に緊張感のある中での出来事です。しかしその一方で、戦況に対してはさほど描写されていないのと、主人公荒木村重の関心が、戦よりもむしろその事件の方に集中している(兵たちの猜疑心による内部崩壊を恐れている)ので、包囲されていることに対する切迫した印象はそれほどありません。むしろ、ミステリー要素が強いので、謎解きの面白さがあります。
全体的に物語の展開とその謎解きのバランスが素晴らしく、また主人公の村重の性格が温厚であるために、読んでいてどこか安心出来る部分もあります。また、謎解きの重要人物として地下牢に幽閉されていた黒田官兵衛が要所に登場して助言を与えますが、その展開も絶妙です。
タイトルの黒牢城の黒牢と言うのは、その官兵衛が投獄されていた地下牢の暗喩のような気もしますが、それだと官兵衛が主人公になってしまうので、むしろ織田勢に囲まれて身動きがとれない、有岡城に暮らす城主以下民草まで全ての人々が置かれた状態を比喩的に表現したもののようにも思います。
ミステリーに関してはあまり深く掘り下げるとネタバレになってしまいますが、さすがにこれだけの賞を取るだけの内容です。歴史小説と組み合わせた妙もあるので秀逸と言って良いと思います。
本屋大賞では直木賞受賞作品はあまり評価というより投票されないのが常なので、この順位は仕方のないところでしょう。歴史小説でもあるので文体が若干硬く、直木賞の方がより相応しく感じます。歴史好きの方にも、ミステリー小説好きの方にも、ぜひ読んで欲しいと思える一冊です。
なお、今回で2022年の本屋大賞も全て読み終えましたが、今年の作品はどれもレベルが高く、全体的にレベルが上っている気がします。これまではノミネートされた上位作品と下位作品では、明らかにその差が大きいと感じましたが、今年に限ってはおそらくどれが大賞をとっても納得できるくらいの作品が揃っているのではないかと思います。今後とも益々の発展を祈っています。
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