2024年本屋大賞第7位、青山美智子さん著作の連作短編小説です。著者の青山美智子さんは、1970年愛知県生まれ。2021年『お探し物は図書室まで』が本屋大賞第2位。2022年『赤と青とエスキース』が同じく本屋大賞第2位。2023年『月の立つ林で』が本屋大賞第5位と今年で4年連続で本屋大賞にノミネートされています。
あらすじ
5階建ての新築分譲マンション、アドヴァンス・ヒル。
近くの日の出公園には古くから設置されているカバのアニマルライドがあり、自分の治したい部分と同じ部分を触ると回復するという都市伝説がある。人呼んで“リカバリー・カバヒコ”。
アドヴァンス・ヒルに住まう人々は、それぞれの悩みをカバヒコに打ち明ける。
誰もが抱く小さな痛みにやさしく寄り添う、青山ワールドの真骨頂。
読書感想
私が本屋大賞の読書感想を始めたのが2020年からですから、今年が5年目になります。著者の青山美智子さんはその翌年2021年から4年連続で本屋大賞にノミネートされている常連作家さんですから、もうすでに多くの方が青山美智子ワールドについてご存知なのではないかと思います。
青山さんの作品で、これまで本屋大賞にノミネートされたものの全てがそうであるように、本書も非常に心温まる、かつ人生の悩みにおける処方箋を提案するような内容になっています。私も著者のこれまでの本屋大賞ノミネート作全ての内容を覚えているわけではありませんが、特に最初の『お探し物は図書室まで』にちょっと似ているかなという印象を受けました。
話の内容は今年度本屋大賞を受賞した、『成瀬は天下を取りにいく』と同様、地域密着型の話の展開で、こちらはさらにローカル色の強い、ひとつのマンションに住まう各階の住人の人たちにまつわるお話しです。その辺りも『お探し物は図書室まで』を踏襲している感じがしますが、共通するのは、そのマンションの近くにある公園に設置されたアニマルライド、人呼んで『リカバリー・カバヒコ』に勇気をもらうお話しになっています。
私もマンション住まいですので、住人同士の関係が希薄であることはよくわかっていますし、実際のところご近所付き合い的なものはまったくありません。本書の内容のマンションは5階建てでそれほど部屋数も多くなさそうなので、マンションと言ってもかつての団地の一棟くらいの規模なのでしょう。
それでもマンションという建物の性格上、普段のお付き合いはせいぜい会えば挨拶するくらいのものだろうと思います。それがやけに住民同士の風通しが良いのは、2022年に嵐の松本潤さんが主演したテレビドラマ、『となりのチカラ』を連想させるところもあります。と言っても見てない方も大勢いらっしゃると思いますので、それはあくまで余談で、地域住民同士の触れ合いや関わり合いを重視するのは、やはり新型コロナが影響しているのかなという印象も受けました。
タイトルでもあり、アニマルライドの呼称にもなっている「カバヒコ」ですが、こちらはただカバにかけて付けた名前ですから、「カバヒコ」よりも「カバコ」とか「カバオ」の方が語呂は良さそうです。ただ、それがどうしてカバヒコなのかは最後の章で明らかになります。
本年度は本屋大賞第7位と少し下位にはなりましたが、これが青山美智子ワールドだなとあらためて思うくらい、読んでいて安心感があります。その分だけ逆に新鮮みには欠けてしまうのですが、ほろっとするような、また新たな気づきを与えてくれるような、そんなお話しがたくさん詰まっている良本です。心が疲れたときや荒んだときに是非読んでいただきたいと思います。
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