【読書感想】滅びの前のシャングリラ

2020年度の本屋大賞を受賞した凪良ゆうさん著作、2021年本屋大賞第7位、「キノベス!2021」第1位に選ばれた作品です。

あらすじ

明日死ねたら楽なのにと夢見ていた。なのに最期の最期になって、もう少し生きてみてもよかったと思っている
「一ヶ月後、小惑星が地球に衝突する」

突然宣言された「人類滅亡」。
学校でいじめを受ける友樹(ゆうき)、人を殺したヤクザの信士(しんじ)、
恋人から逃げ出した静香(しずか)、そして――
荒廃していく世界の中で、「人生をうまく生きられなかった」四人は、最期の時までをどう過ごすのか。

ー滅びの前のシャングリラ|特設ページ|中央公論新社ー

読書感想(若干ネタバレあり)

本屋大賞第7位ではあるんですが、本年度は第5位から第7位までの点差は僅差で、『自転しながら公転する』でも書いたように、5位と6位には点差がありません。ですから、本作と5位『自転しながら公転する』、6位の『八月の銀の雪』に関しては、作品としての優劣と言うより評価としては、ほぼ横並びと言っても良いのでしょう。8位の『オルタネート』との点差がだいぶありますので、その辺りは審査員である全国の書店員さんの見方によるものだと思います。

さすがに昨年本屋大賞を受賞しただけあって、作者の筆力は相当なものだと思います。惑星衝突というSFにはありがちな題材で、映画の「アルマゲドン」などもその類でしたね。こちらは小説ですので、ブルース・ウィリスのようなヒーローは登場せずに、その運命に翻弄される人々を描いた作品です。

タイトルの「シャングリラ」というのは、実際にチベットの方にその地名を持った都市がありますが、ここでは理想郷という意味でしょう。滅びの前というのは惑星衝突前ということですね。惑星衝突自体は起きてもおかしくない事象ですが、現状ではそれほど現実味はないでしょう。日本人にとってはそれよりも大地震や富士山噴火の方がより身近に感じられるのではないかと思います。ただ、そうした世紀末的な不安が今のコロナ禍の影響もあって、読み始めてすぐにその世界観に浸ることが出来ました。

以下ネタバレも含みますが、各章の初めにその章の主人公の紹介が書かれているので、それほど問題はないかと思います。前半は、いじめられっ子の主人公とその家族に纏わる話が展開されて、最後の章は、そのいじめられっ子が恋心を抱いている同級生の女の子が傾倒している歌姫の話になっています。

実は、その最後の章の手前まではほぼ一気読みしたんですが、最後にそこだけ世界が変わっているので、馴染むのに時間がかかったというか、むしろ冷めてしまった感があります。いずれはハルマゲドンで人類が滅亡するという絶望の中での物語ですから、人それぞれの事情や感慨があってよいのでしょうが、そこまでは関係のある家族の話で、その後にそれまでの流れに直接関係の無い人が登場してくると、話しの展開の中ですで登場していたとは言え、どうしても世界観がぼやけてしまいます。逆に最後の章を引き立たせるために、伏線となる家族の話を語ってきたという考えも出来なくはないですが、仮にそうだったとしても、私にはそこまでの話の方が、むしろ面白く読めました。

5位の『自転しながら公転する』は蛇足感が強かったのですが、本作はどちらかというと、場面転換に失敗した感があり、8位の『オルタネート』は前にも書いたように、『ごった煮』感が強い印象です。ただ、あくまで私の個人的な感想ですが、作品としてのインパクトは本作の方が強いものの、個人的には8位の『オルタネート』の方が全体的に纏まっている感じはしました。ただ、先ほどの最後の章に関しては、主人公が比較的若い女性であることから、おそらく同じくらいの年代の女性にはわりと刺さったのではないかと思います。

ともあれ、人類滅亡のタイムリミットが迫ってくる中、漫画「北斗の拳」のように世紀末を思わせる、一種独特で異様な世界観はうまく表現出来ていると思います。ありきたりな毎日で、少し刺激の欲しい方にお勧めしたい一冊です。

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