日本一有名な「ドヤ街」、西成のルポです。テレビではよく「あいりん地区」と紹介されます。著者の國友公司氏は大学を卒業したてのまだ若い方ですが、このジャンルはいわゆる裏社会の世界ですから、ある程度の社会経験を持っていた方が有利ではあったでしょう。ただ、何にでも飛び込んでいけるのが恐れを知らぬ若者の特権でもあるのでしょう。
あいりん地区は、ニュースでもたびたび取り上げられますが、本当にこの地域での出来事をニュースにしていたらキリがないほど、事件や事故が日常茶飯な場所ではないかと思います。それでも、地理的には日本一高いビルで一躍脚光を浴びた、あべのハルカスからもそれほど離れていない場所にあるのです。日本の闇とも言える所以ですね。
本書ではそんな西成に潜入して、ドヤ生活、飯場生活、そこに住む人たちとの出会いや親交を若者らしい視点で捉えています。というと聞こえは良いのですが、やはり前途ある若者と、落ちぶれたおじさん達との交流で、それほど心温まる親交などは望むべくもありません。どちらかというと、そこに暮らす人達を蔑み、軽蔑しながらのルポになっています。
ただ、それも当然と言えば当然ではあるでしょう。ここ西成のドヤ街で生活する人の殆どが、何かしらスネに傷を持つ身、やくざや前科者も珍しくないと言うよりは、大半が前科持ちであったり、覚醒剤中毒であったり、生活保護を受けながら囲われの身であったりと、およそ健康で文化的な生活とは隔たりのある暮らしを送っています。普通の生活を送っている人は、おそらく目を背けたくなる現実がそこにはあります。ですから、そういう人たちと仲良くなるということは、自分もその世界に引きずり込まれる恐れがあるということです。自身も思い描いていた作家やライターとは程遠い状況にありながら、それでもなおドヤ街に生活する人たちを認め受け入れる事ができず、そこに著者自身の葛藤もありながら、一歩も二歩も引いた目線で眺めているのが本書の特徴でしょう。
文体もそれほど堅苦しくなく、わりとすぐ読める本ですが、著者の滞在期間が78日間という3ヶ月にも満たない比較的短い期間ですので、体験本としては若干時間が短いのではないかと感じます。特に著者がいた時期が春先から梅雨に入ろうとする手前くらいまでのようなので、一番過ごしやすい時期ではあったでしょう。やはり最低でも1年間を通してみないと、そこでの生活の苦労や季節による違いなどもわかっては来ないでしょう。ただ、そこに暮らす人々の本質は変わることは無いでしょうから、あまり長居をしているとそうした生活習慣に呑み込まれる恐れがあるので、ちょうどよい期間だったのかもしれません。
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