2024年本屋大賞第2位、津村記久子さん著作の長編小説で毎日新聞夕刊で連載されていた小説を加筆修正して書籍化されました。著者の津村記久子さんは、大阪府出身、2005年に「マンイーター」で第21回太宰治賞を受賞し小説家デビュー。2009年「ポトスライムの舟」で第140回芥川賞受賞、その後多くの作品が数々の賞に輝き、本書『水車小屋のネネ』では第59回谷崎潤一郎賞を受賞しています。
あらすじ
誰かに親切にしなきゃ、
人生は長く退屈なものですよ18歳と8歳の姉妹がたどり着いた町で出会った、しゃべる鳥〈ネネ〉
ネネに見守られ、変転してゆくいくつもの人生――助け合い支え合う人々の
40年を描く長編小説
読書感想(ネタバレあり)
最初タイトルを見たときに、アルプスの少女ハイジとか赤毛のアンのように、ネネというのは人の名前かと思っていたのですが、水車は海外のものよりもむしろ日本のもののほうが馴染み深いですね。ここに出てくる水車は古民家などでも見ることが出来るもので、水車の動力を利用して主にそば粉を製粉するためのものです。そしてネネはその内部装置を見張るいわば番人のようなヨウムという鳥の名前です。この鳥の寿命が長いものだと50年くらいということで、物語の登場人物たちが成長する間もずっと生き続けています。
ネネが主人公のようなタイトルなので、鳥の目線から子どもたちの成長を見守ってきた雰囲気もありますが、そうではなくて、むしろその鳥の面倒を見てきた人たちの様々な生い立ちや苦労が主題となっています。鳥の面倒を見るというひとつの作業が、物語全体を通してのひとつのエッセンスになっていて、ヨウムという鳥の愛くるしさも相俟って、それを見守る人たちの優しさや人となりが非常に効果的に演出されています。
あらすじにある内容紹介では40年を描くとなっていますが、第一話1981年から10年がひとつの節目になっていて、第二話は1991年、それから忘れることの出来ない2011年が第四話で、コロナ禍の記憶も新しい2021年がエピローグとなっていて、こちらが新聞連載終了後の加筆となっています。
第一話は例によってと言いますか、本屋大賞ではある意味お馴染みになった毒親(馬鹿親)に幼い姉妹が苦労させられる話で、こちらは姉(理佐)の視点で書かれていますが、10年後の第二話からは、幼かった妹(律)が主人公に昇格した感じで、そちらの目線から描かれていることが多くなります。
全体的にハートフルで、本屋大賞に好まれるタイプの小説だろうと思いますが、私としてはちょっと冗長に感じました。もっとも元は新聞の連載小説ですから、あまり短いわけにもいかないのでしょうし、鳥の寿命が50年と言っていることから、最初からそれだけのボリュームにする予定だったのかもしれませんが、逆に第一話で苦労したお姉さんとその後の夫婦の話をもう少し後半部分で織り込んでも良かったように思いますし、終盤に出てきた少女の話も若干中途半端な気がします。
蛇足ですが、物語中には多くの映画タイトルやオールディーズの曲が登場し、主人公の苗字が山下さんなので、『山下達郎のサンデーソングブック』を思い出さずにはいられませんでしたが、あの番組はあまりベタな曲はかからないよななどと余計なことを考えていました。
いずれにしろ、物語の前半第二話までは個人的に非常に面白く、それが姉の結婚への序章的な盛り上がりを見せていたので、そこがクライマックスだとするとどうしても話の転回後の残りが長く感じてしまいます。
完全に妹が主人公になった以上はむしろその人生にもう少し変化があっても良いようにも思いますが、逆にネネが束縛するような形になってしまっていて、鳥を中心とした人間関係は悪くはないんですが、妹の人生ももう少し明るいものにしてあげても良かったように思います。
ただ、判然としないというか、もし思い違いだったら私はかなり大きな間違いを犯してると言えるのは、妹(律)が失恋したとなっていた相手がどうも女性のようで、これは律がいわゆる同性愛者だったのか?となったところです。実は小学校の先生で藤沢先生という登場人物がいるのですが、こちらは最初に女性の先生だと書いてあったにもかかわらず、私の思い込みで途中まで男性教師と思っていたので、律も同様に妹じゃなくて弟だったのか?となってしまったのです。しかし、この場合姉妹であることは明白なので、上のように???となってしまったわけです。もしも私の解釈が間違っているでしたら、正しいことを教えていただけると幸いです。
本屋大賞第二位が妥当かどうかはともかく、ヨウム「ネネ」の愛嬌と、8歳の小学生だった「律」の利発さと可愛らしさが印象に残った作品でした。
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