2023年本屋大賞第8位、町田そのこさん著の小説です。著者の町田そのこさんは、『52ヘルツのクジラたち』で2021年本屋大賞を受賞、昨年の22年には『星を掬う』で本屋大賞第10位にも選出されています。
あらすじ
生まれて時から育ての「ママ」と一緒に暮らしてきた宙。小学校入学をきっかけに産みの「お母さん」、花野と暮らすことになるが、彼女は理想の母親像からは程遠く……。
読書感想(ネタバレあり)
あらすじが簡単になっていますが、(ちょっと問題のある)家族ドラマ的な小説です。著者の町田そのこさんが本屋大賞にノミネートされたのは大賞を受賞した2021年から3年連続になりますが、共通するのは家庭内暴力(DV)であったり、ネグレクトであったり、いわゆる毒親が登場するシーンが多いことです。
宙ごはんというのは主人公の名前『宙』から来ています。親子に限らず、兄弟姉妹、そして恋人、愛人も巻き込んださまざまな問題で荒んだ心を癒やすのはいつもおいしい料理ということで、それぞれのエピソードごとに料理が彩りを添えるスパイスとして使用されています。町田そのこ流「幸せのレシピ」と言ったところでしょうか。
話の内容は既視感のあるものが多いですが、特に著者の町田そのこさんは母娘の呪縛的な内容が多く、その辺は女性作家らしい視点だと思います。親が子供に向ける無償の愛の姿というよりは、親が自分の子供をあたかも所有物のように扱い、束縛し、あるいは意に反することをすると容赦なく痛めつける。そのことを子供たちが恨み、呪い、蔑み、やがて絶望し無気力になっていく。主人公も実の母親とどう接していいかわからないのですが、そこには救いの手を差し伸べてくれる人がいます。
それぞれの登場人物が未熟で足りない部分があり、その短所を補うかのように成長し、変化していく。それを主人公『宙』の目を通して体験していきますが、読んでいてちょっと引っかかるところがありました。
まず全体的な印象として、主人公は子供の『宙』なんですが、生みの親『花野』に焦点が当てられることが多く、どちらかというと宙の母親である花野の物語のように感じてしまうこと。それというのも、生みの親と育ての親二人の生い立ちや関係性は描写されているのに、いつまで経っても主人公『宙』の出生について描かれていないからです。物語の中盤までいって、読み飛ばしているのかと何度も前の方をチェックしましたが、それらしい記述はありません。
結局物語の最終盤になってそのことは明かされるのですが、どうもその辺は編集上というか構成上の作戦なのかもしれませんが、しっくり来ませんでした。親として生みの母親と育ての母親と二人いて、育ての父親も登場しているのに実の父親がまったく登場しないというのは物語の前提としてちょっと厳しい。なぜならそういう境遇になったのは、それが原因になっているはずなのに、たとえば「本当のお父さんは今どこにいるの」とか「今はどうしているの」とか幼い子どもの頃に聞いていて然るべきだし、子供の頃から大人びた思考や表現を使っている主人公だからこそ、その辺は余計不可解に思ってしまうのです。
そもそも姉の子を妹が引き取って育てるという特殊事情なんですから、どうしてそうなったのかという経緯はやはり物語の前提として把握しておかないと気持ち的にすっきりしません。物語の途中まで読んで最後の方で種明かしする手法なのだろうとは思いましたが、なんとも言えないもどかしさを覚えつつ読み続けなければならないのは少々苦痛でした。
ただ、それぞれのエピソードはどれも心温まるものが多く、時々暗い気持ちにもさせられましたが、読後感は悪くありません。最終的には家族の愛に包まれた佳作でした。
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