2023年本屋大賞第10位、結城真一郎さん著作のミステリー小説です。本書は小説新潮に掲載された短編五篇を収録した内容になっています。著者の結城真一郎さんは、1991(平成3)年、神奈川県生れで東京大学法学部を卒業。2018年、『名もなき星の哀歌』で新潮ミステリー大賞を受賞してデビュー。本書にも収録されている「#拡散希望」で、2021(令和3)年日本推理作家協会賞短編部門を受賞しています。
あらすじ
子供が四人しかいない島で、僕らは「YouTuber」になることにした。でも、ある事件を境に島のひとたちがよそよそしくなっていって……(「#拡散希望」)。日本の〈いま〉とミステリが禁断の融合! 緻密で大胆な構成と容赦ない「どんでん返し」の波状攻撃に瞠目せよ。日本推理作家協会賞受賞作を含む、痺れる五篇。
読書感想
冒頭に書いたように、本書は2023年本屋大賞第10位の作品です。そして2023年度の本屋大賞は、第5位から第9位までの5作品は30点差の中にひしめく激戦である一方、上位4作品はそれぞれ30点から50点の差があり、明確に順位分けされている印象です。そんな中で本作は第9位にも大きく水をあけられていますが、その点差が内容の面白さを反映しているかと言うと、必ずしもそうではないと思います。
世相を反映した今どきの小説という感じではありますが、もともと男性作家ということで、男である私には比較的読みやすい文体です。そして、そのミステリーの内容は、短編ではありますが、その5篇がいずれも印象深く面白い内容になっています。
これも以前書きましたが、本屋大賞の特徴として、ハートフルな内容の物語が上位を占めることが多く、推理小説やミステリーはどうしても後塵を拝する形になります。これは本屋大賞のコンセプトである、『全国の書店員が、今一番売りたい本を決める!』を考えた場合に、きっと、「それは殺人事件の話じゃないでしょ」とか、「子供から大人まで幅広く多くの人が楽しめる内容の本でしょ」という理由があるからだろうと思います。
これまでの本屋大賞には、これが10位なのは無理もないなと思えるものも少なくありませんでしたが、正直本書がこの順位なのは、ひとえに内容が、良い子のみんなにはあんまり読ませたくないと思える内容だからだと思います。きっと対象読者を大人限定にしたら、もっと上位に来てもおかしくない作品です。個人的にはこの上位でしのぎを削っている5作品よりも上の評価です。
収録されている篇は、「惨者面談」、「ヤリモク」、「パンドラ」、「三角奸計」、「#拡散希望」の計5篇。タイトルだけでもその内容が子供向けじゃないなというのはお察しの範囲内だろうと思います。そんなわけで私は、大人の方には推したい佳作だと思いました。
コメント