2024年本屋大賞第6位、川上未映子さん著作の長編小説です。著者の川上未映子さんは1976年大阪府生まれ。2008年『乳と卵』で芥川賞受賞。2009年 『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』で中原中也賞受賞、2010年『ヘヴン』で 第60回芸術選奨文部科学大臣新人賞、第20回紫式部文学賞を受賞、2019年『夏物語』では 第73回毎日出版文化賞受賞、2020年の本屋大賞でも第7位、またそれ以外にも数々の賞を受賞されています。
あらすじ
2020年春、惣菜店に勤める花は、ニュース記事に黄美子の名前を見つける。60歳になった彼女は、若い女性の監禁・傷害の罪に問われていた。長らく忘却していた20年前の記憶――黄美子と、少女たち2人と疑似家族のように暮らした日々。まっとうに稼ぐすべを持たない花たちは、必死に働くがその金は無情にも奪われ、よりリスキーな〝シノギ〞に手を出すことになる。歪んだ共同生活は、ある女性の死をきっかけに瓦解へ向かい……。
読書感想(ネタバレあり)
今回はだいぶネタバレがありますので未読の方はご注意願います。
全部で600ページもある大長編小説です。特設ページにも「ノンストップ・ノワール小説」とあるように、内容は非常にダークで暗い小説になっています。上のYoutubeで著者の川上さんご自身が語っているように、もともとは一生懸命だっただけなのに、それが段々と悪の道に嵌っていくさまが見事に描写されています。
ウィキペディアによると、著者の川上さんご本人も高校卒業後に北新地のクラブでホステスとして働いていたとありますので、主人公の花と同じような思いを感じたり、他のホステスたちと仲良くなったり、時には諍いもあったりしたのでしょう。おそらくは小説で描かれているような仲間内で和気藹々というような世界ではなかったはずです。
特徴的なのは、昨年も毒親を背景にした本が本屋大賞、あるいはノミネート作品にも何冊かあって、母親の呪縛とか親の因果が子に報い的なものは、やはり男よりも女性の方がより感じるものなのだなという印象を抱いたのですが、それは本書にも通じるものがあり、それがやはり女性の共感を呼ぶのではないかと思う部分はあります。
発端は主人公花と昔同居していた黄美子がある事件の新聞記事になっていたことから始まりますが、それをきっかけに主人公花が昔のことを思い出し、当時に舞い戻るような内容になっています。
タイトルの黄色い家というのは、黄美子の黄や、金運が良くなるという黄美子が信じていた風水の黄色から来ていますが、特に家の外観が黄色いわけではありません。そう言えば昔、赤と白の交互に塗った家の外観が派手で目に余ると訴えられた漫画家さんもいましたね。外壁が黄色い家そのものは特にめずらしくはないでしょうし、あまり黄色黄色してるのはなんですが、淡いクリーム色くらいならむしろオシャレな感じはします。
ちょっと脱線してしまいました。物語は主人公花の目線で語られていきますので、導入部分は黄美子が実はどんな悪党だったのかと多少身構えましたが、読み進むにつれてだんだんそのキャラがわからなくなりました。
はじめは頼りがいがあって姉御肌で、名前が同じ読みでもある女優の「余 貴美子」さんを連想したんですが、それが後半になってくるとまったく特徴の無い空気のような存在になってしまって、正直その辺の違和感は拭えませんでした。主人公の花が自分ではどうしようもないうねりに飲み込まれて、ひたすら藻掻き苦しみやがて病んでしまう様はよく伝わってくるのですが、その対比の友人二人ともほぼ扱いが一緒になってしまっていて、存在感がまるで無くなってしまいます。アルツハイマーとか認知症なのでしょうか。昔からの知り合いはみんな、ある意味黄美子のトロさを理解しているので、その辺りがよくわからず拍子抜けの感はありました。
それと全然関係ないんですが、黄美子がスナックを居抜きで譲り受けてママとして店をやっていくのですが、それを主人公の花が手伝うことになります。その開店祝いの日に黄美子の昔からのお友達が自分のご贔屓さんを店に連れてきてくれたので、黄美子が花にビールを持ってくるように言うんですが、そのときのセリフが「花、ビールね。大瓶にしようか。うちらのじゅったん、それと温かいお茶くれる」というものでした。実はこの「うちらのじゅったん」を読んだときに一瞬意味がわからず誤植かなと思いました。どうやらビールグラスのテンオンスタンブラーのことだろうと思いますが、そういう言葉は初めて聞きました。他にもトゴとか隠語も使われていたので、知らない人にはちょっとわかりづらい裏社会の勉強?にはなるかなとも思います。クレジットカードのスキミングとかは一時ニュースでさんざん取り上げられていましたね。
小説自体は主人公花の物語なので、実は黄美子がどういう人間であるかというのはそれほど重要ではないんですが、冒頭の新聞記事の内容がただならぬもので、実際の黄美子の裏の顔はどんなで実際にどんな事件を起こしたのだろうという疑問は絶えず湧きながら読んでいくので、物語自体のダークさと相俟って、より一層重苦しい雰囲気になってきます。余韻が残る作品ではあるのですが、けっして読後感が清々しいものではありません。読売新聞の朝刊に連載されていたようですが、朝からこれを読んだ方たちは暗くならなかったのでしょうか笑
面白くはあるけれど良い子にはあまり勧めたくない、お勧めできるのはある程度社会経験を積んで酸いも甘いも噛み分けた大人の女性の方と言った感じでしょうか。
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