【読書感想】星を編む

2024年本屋大賞第8位、凪良ゆうさん著の中編小説集です。本作は前年度(2023年)本屋大賞を受賞した『汝、星のごとく』の続編になります。著者の凪良ゆうさんは、2020年に『流浪の月』で本屋大賞を初受賞、2021年には『滅びの前のシャングリラ』が本屋大賞第7位と2年連続本屋大賞ノミネートを果たし、今回が四度目の本屋大賞ノミネートということで、本屋大賞の常連作家さんでもあります。

あらすじ

花火のように煌めいて、
届かぬ星を見上げて、
海のように見守って、
いつでもそこには愛があった。

ああ、そうか。
わたしたちは幸せだった
のかもしれないね。

『汝、星のごとく』で語りきれなかった愛の物語
「春に翔ぶ」--瀬戸内の島で出会った櫂と暁海。二人を支える教師・北原が秘めた過去。彼が病院で話しかけられた教え子の菜々が抱えていた問題とは?
「星を編む」--才能という名の星を輝かせるために、魂を燃やす編集者たちの物語。漫画原作者・作家となった櫂を担当した編集者二人が繋いだもの。
「波を渡る」--花火のように煌めく時間を経て、愛の果てにも暁海の人生は続いていく。『汝、星のごとく』の先に描かれる、繋がる未来と新たな愛の形。

ー 『星を編む』(凪良 ゆう)|講談社BOOK倶楽部 ー

 読書感想(ネタバレあり)

冒頭でご紹介したように、本作は前年度本屋大賞受賞作『汝、星のごとく』の続編で、上のあらすじにあるように、第一編『春に翔ぶ』は、前作の主人公櫂と暁海を支えた教師北原先生の過去の物語。これは前作で、生真面目な北原先生がどうして定期的に愛人と逢瀬を重ね、そのことを咎められないのか、その理由の前提となっています。

実は、『汝、星のごとく』を読んでからだいぶ日も経っていたことから、内容のかなりの部分を忘れてしまっていました。ですので、読みながら徐々に思い出してきたというのが本当のところで、北原先生のキャラとか前作でどんな役回りだったかというのは、この編を読んでいるときにはまったく思い出せませんでした。おそらく記憶が新しいうちに読んだらもっと面白かったと思うのですが、それでも物語のスピード感や切迫感、やむにやまれぬ展開は読んでいて非常に面白く、あらためて筆者の力量を感じました。この編は前作よりも過去の物語ですから、前作を読んでいなくても十分楽しめます。

第二編『星を編む』に関しては、『汝、星のごとく』を担当した漫画と小説それぞれの二人の編集者の奮闘記ということで、こちらも前作を読んでいなくても楽しめます。ですが、前作で早逝した主人公『櫂』が作り上げた小説タイトルも『汝、星のごとく』という設定で、それは前作の主人公達の物語そのものであり、前作から踏襲しているので良しとしても、『汝、星のごとく』というタイトルがわりと頻出するので、何か宣伝を読まされているような、いささか鼻に付く感じは否めません。その辺りは、前作の物語にどれほど入れ込んでいるか、もしくは許容できるかの度合いにもよるかと思います。

それと本書のタイトルにもなっている『星を編む』ですが、こちらはどうしても2012年に本屋大賞を受賞した『舟を編む』を想起せざるを得ません。『舟を編む』は辞書の編集でしたが、本作では小説と漫画の編集という共通項があります。私は『舟を編む』の原作は読んでいないのですが、アニメ化やドラマ化もされているので、ご覧になっている方も多いのではないかと思います。個人的には松竹で映画化されたものが好きで、主人公の『馬締』を演じた松田龍平さんとその妻『香具矢』を演じた宮崎あおいさんが醸し出す、静かで穏やかな空気感が最高に素晴らしいと思っています。そう考えると、前作から続く北原先生と暁海の性格や関係性、自分の感情を表に出さず、お互いを尊重しあい必要以上に相手の領域に踏み込まないという姿勢は、なんとなくこの二人に似ているようにも思います。実際にそれを意識していたかどうかはわかりませんが、きっと参考にはされているのではないかと思います。

第三編の『波を渡る』は、前作の後日談と暁海の生涯について描かれています。元彼、『櫂』との思い出に浸りながらも今を生きる暁海。それを陰になり日向になり支え続ける北原先生との特殊な愛の形。決して奇想天外な波乱に満ちた展開ではありませんが、こちらもまたお互いを思いやる温かい空気に包まれています。『汝、星のごとく』のヒロインとして注目され、刺繍作家としてそれなりの地位や名声も手に入れた暁海ですが、その本質は決して特別な存在ではなく、ごく普通の市井人であるという自覚が彼女にはあります。『櫂』との灼熱の恋と対比した北原先生の愛は、海に例えれば作者の名前にもある凪というくらい落ち着き安心に満ちています。

相変わらずさすがの筆致で、その文才には翳りが見えません。おそらく前作の『汝、星のごとく』から一気読みしたほうが余韻は強く残るのではないかと思います。今回は本屋大賞第8位と比較的下位にはなりましたが、これは続編ということで仕方ないところかと思います。特に前作のファンの方は読んでおくべき一冊だろうと思います。

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