【読書感想】爆弾

2023年本屋大賞第4位、また、『このミステリーがすごい! 2023年版』国内篇(宝島社)、『ミステリが読みたい! 2023年版』(ハヤカワミステリマガジン2023年1月号)国内篇ともに第1位、そして第167回(2022年上半期)直木賞候補作に選ばれた、呉勝浩ごかつひろさん著作のミステリー小説です。著者の呉勝浩さんは1981年青森県生まれ。大阪芸術大学映像学科を卒業。現在は大阪府大阪市にお住まいです。2015年、『道徳の時間』で、第61回江戸川乱歩賞を受賞し、デビュー。その後数々の賞を受賞し、直木賞候補にも何度も名を連ねています。

あらすじ

些細な傷害事件で、とぼけた見た目の中年男が野方署に連行された。
たかが酔っ払いと見くびる警察だが、男は取調べの最中「十時に秋葉原で爆発がある」と予言する。
直後、秋葉原の廃ビルが爆発。まさか、この男“本物”か。さらに男はあっけらかんと告げる。
「ここから三度、次は一時間後に爆発します」。
警察は爆発を止めることができるのか。
爆弾魔の悪意に戦慄する、ノンストップ・ミステリー。

ー『爆弾』(呉 勝浩)|講談社BOOK倶楽部 ー

読書感想

場面の多くは野方警察署に連行された傷害犯(自称スズキタゴサク)と刑事との取調室での攻防劇と言ったところで、テレビ朝日のドラマ『緊急取調室』やフジテレビの『ミステリと言う勿れ』の第一話と爆弾をテーマにした回を想起させます。特にあとで取り調べをすることになるモジャモジャ頭の刑事というのは菅田将暉さんを思い出してしまいました。もっともドラマでは被疑者でしたが。

ドラマでも取り調べに重点が置かれる場合には、容疑者の人を食ったような態度はある意味お約束ですが、この容疑者もご多分に漏れず、かなり警察を舐めた無敵の人になっています。映画やドラマにしたら相当面白いでしょうね。キャストとしては、いがぐり頭のスズキタゴサクの容姿だけなら六平直政さんかなとも思いましたが、アラフィフというにはだいぶお年を召されました。そうすると年齢的に近いのは荒川良々さんあたりの気もしますが、それだと身長170cmくらいのスズキタゴサクに比べて少し身長が有りすぎですね。髪型はともかく、身長と年齢、さらに話術を考えると、ムロツヨシさんなどが適役のような気もしますがどうでしょうか。

脱線が過ぎました。本作の評価ですが、言うまでもなく大変面白いです。個人的には昔から宝島社の「このミステリーがすごい!」で第一位(『このミス』大賞とは別)になるのは面白いのは間違いないと勝手に思っているのですが、本作も期待を裏切りません。

プロローグに出てくる女子大生は、それほど重要な役割ではありませんので、あまりそっちに意識を回さないほうがいいと思いますが、そんなのが気にならなくなるくらいに物語の展開に嵌ってしまいます。厭世的でありながら、取り調べにあたる刑事との折衝を楽しむ容疑者。話の内容から犯人であることは間違いないけれど、目的や事件の全容が見えないために翻弄される警察。時限爆弾の迫るタイムリミット、犯人が出すヒントの謎解き、警察官の心に巣食う悪魔、登場人物の関係。いろんな要素がうまく絡み合っていて、一気に読み通してしまいます。

本屋大賞でミステリー関係が多少順位が落ちてしまうというのは何度も言ってますが、これが5位以下を大きく引き離した単独4位であるのは頷けます。もしも読者を大人の男性だけに絞ったら、1位になってもおかしくないんじゃないでしょうか。それほど骨太で面白い作品に仕上がっています。ミステリー好きな方は是非読んでみて欲しい秀作でした。

さて、これで2023年の本屋大賞ノミネート作品はすべて読み終わったのですが、やはり本屋大賞常連さんたちが多くいるからか、全体的に見ても、今年はさらに作品の完成度が上がってきているように感じました。傾向としては毒親に関するものが増えた気もしますが、これはコロナ禍であらためて家庭内や内省的なものに目が向いたという時代的なものもあったのでしょう。皆さん好き嫌いがあると思うので、大賞に選ばれたものが必ずしも納得いくものではないかもしれません。私自身、点数を付けると順位が大きく変わるものがあります。ただ、今年の作品はどれを読んでも何かしらの気付きがあるような気がしました。大賞や候補作に選ばれた作品の著作者さんだけでなく、より多くの作家さんたちのさらなる飛躍を期待し、またより多く楽しませていただきたいと思います。

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